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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
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16 Puzzle Pieces

 タリスマン支部に一時的に戻ってきたジェシカと零。ここを出たときと違うのはエヴァルドも共にいるということ。

 エヴァルドはタリスマン支部の建て替えられた建物を見て戸惑いを見せている。それもそのはず、エヴァルドが心の内では憎んでいたタリスマン支部は変わり果てていた。それだけでなくジェシカまでもが心を許すようになっていたのだ。


「ここが、タリスマン支部なのか……私が知っているタリスマン支部とは違うじゃないか」


 エヴァルドは言った。


「すべて変わってしまったみたいなんです。町の人たちが殺されたあの戦いのときに。そのときにトロイ・インコグニートが殺されて新しい支部長が就任した。私もまだ信じられていないんですけど、彼女ならうまくやってくれるのかもしれません」


 エヴァルドに応えるようにしてジェシカは言う。彼女がそう言って間もなく、タリスマン支部の建物からルナティカが出てきたのだった。相変わらず書類仕事で疲れているような様子だったが。


「また何かあったんだね?」


 建物から出てくるなりルナティカは尋ねた。


「はい、襲撃が。エヴァルドさんの家を訪ねたらあの人が、ケイシー・ノートンが――」


 ジェシカがここで言葉を切った。彼女の目の前にいたルナティカの表情も一変したが、ケイシーの生存を意外だと思っているようではなかった。


「やっぱり生きていたんだね……知らない間に姿をくらませたかと思ったら」


 歯痒そうに言うルナティカ。


「そのケイシーについての話も気になるけれど、見回りとかの報告も聞いておきたいな。ジェシカ、彼についてのことも含めてすべて話して。私が信用できないのならそれまでだけど」


「全部つながっていますよ、ケイシーのことも。父の死についてもわかったわけだし……」


 ジェシカは言った。どこか歯がゆさを抱えた彼女。


 4人はタリスマン支部の建物に入り、その一角にある会議室の席に座る。


「エヴァルドさんの情報ですから信頼してください。本当に信頼できることだから」


 まず、ジェシカが口を開く。


「私の父を殺したのは、ケイシー・ノートンでした。ええ、ここまで早く到達できるとは思いませんでしたよ。それが、エヴァルドさんから得た一番の情報です」


「あれは自殺ではなかったんだね。確かに情報を集めて怪しいと思ったし、ヘザーの介入があったんじゃないかとは踏んでいたけど……」


 と、ルナティカ。すると。


「ヘザー?」


「タリスマン支部の元メンバー。彼、人を操る力を持っていて、その気になれば人を自殺させるくらい簡単にできるんだよね。この写真の人がそうなんだけど」


 ジェシカに聞かれたルナティカはそう言いながら携帯端末を出す。その画面に表示されたのは黒髪の女――の姿をした青年。今は亡きヘザー・レーヴィの写真。

 すると今度はエヴァルドが血相を変える。


「その人も見かけた。ケイシーという人と声を掛け合うところから私は見ていたが、そうか……タリスマン支部の人間だったのか」


 と、エヴァルド。

 ばらばらだったピースが集まって形を成してゆくようだ。ジャレッドの死にかかわった、もといジャレッドを殺したケイシーはまだこの世で野放しになっている。


「うん。それもトロイが重用するほどのね。ケイシーはそうでもないんだけど。さて、もう一つ聞かせてほしいな。ケイシーをその目で見たとき、何かされた?」


 と、ルナティカ。彼女の言葉で3人――ジェシカと零とエヴァルドは戦慄する。

 ケイシーが3人の前に現れたとき、全員が死を覚悟した。ケイシーは生死という運命も操り、チェーンメールを送る勢いで人を殺すことができるのだ。


「いいや、何もされていません。ただ、ケイシーはエヴァルドさんを殺せたとしても彼自身が持たないって」


「なるほど……」


 と、ルナティカは呟いた。

 ここにいる4人の中でルナティカだけがケイシーの能力を知っている。が、その彼女も全容を知るわけではなく、ケイシーの言動の意味はわからない。それでもルナティカは伝えるべきことを口にする。


「ケイシーはね、運命を操る力を持っている。言ってみればやり直しかな。都合が悪いことがあれば、その記憶を保持してある時間からもう一度やり直す。洒落にならない能力なんだけど、どこまでの範囲でできるのかはわからない。前に聞いてみたことがあるんだけど、はぐらかされただけで」


「やり直し……そういう意味だったのか」


 と、零。

 彼が言うのと同時にジェシカは最悪の結末が頭をよぎる。


 ――ケイシーがまだタリスマンの乗っ取りを考えていて、そのためにやり直す能力を使うとしたら。


 そんなことはありえないとは言い切れない。ジェシカはこの不確かな状況で両手を握りしめる。そして。


「あの、ケイシーを殺しましょう。タリスマンの乗っ取りを考えて人殺しを決行して、運命を捻じ曲げるような能力を使う。生かしておくのはあまりにも危険すぎますよ……」


 ジェシカは言った。他の3人はしばらく黙ったままジェシカに注目していた。が、ルナティカが口を開いた。


「そうできるなら最高なんだけどね。神出鬼没な以上、見つけ出すのが難しい。策があるなら別なんだけどね」


「策なら私が用意しているよ。念写の能力を使えば、ケイシーの所在くらい簡単にわかる」


 今度はエヴァルドが言った。


「なるほど……厳しい戦いになることはわかっているけど、やってみる価値はあるかもしれないね」


 と、ルナティカ。彼女もケイシーに思うところがあったのか、乗り気のようだった。


「さて、作戦立案はしておく。また共有するよ」



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