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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
16/76

14 Multiple exposure

 ――支部長は許可を出してくれたし、エヴァルドさんには会いに行ける。


 黄色の壁の家。その中でジェシカは赤いジャケットに袖を通し、剣を背負った。


「よし、行こう! せっかくジェシカも復帰できたんだし!」


 先に準備ができていた恵梨が言う。彼女は家の玄関でジェシカを待っている。その手には何も持っていないが、戦うことはできる。

 ジェシカは恵梨を追うようにして家を出た。




「昨日言っていたとおり、ジェシカは見回りね。零に同行を頼むから。念のためだけど、復帰したてだから護衛も兼ねてもらう」


 タリスマン支部のロビーで待っていたルナティカは言った。彼女の隣には零もいる。


「ありがとうございます。そうですよね、確かに私2週間もここを離れていたわけだから」


 と、ジェシカ。


 ほどなくして、零とジェシカは見回りに出た。

 目的の人物エヴァルドのいる場所はダウンタウンのはずれ。タリスマン支部からはある程度離れているが、町のなかではそれほど治安の悪い場所ではなかった。もっとも、犯罪の温床になっている廃工場や廃墟群近くと比べての話だが。


「やっぱり活気がなくなってる。私はよく知らないけどあの戦いがあってから、なのかな」


 と、ジェシカは呟く。


「あの戦い以前のことは俺もよく知らないな。まあ、いろんな理由で人が減ったというのは確実に言えるみたいだ。そりゃ、活気もなくなるだろう」


 零は答えた。彼もまた、少し前――昨年の秋の戦い以前のタリスマンをよく知らないのだった。


 ダウンタウンを最短距離で通り抜けたところでジェシカは立ち止まり、辺りを見回した。近くにあったのは壁に子供たちが描いたような落書きのある家。そこが何なのか、ジェシカはよく知っていた。


「ここだよ。エヴァルドさんがいるのは」


 ジェシカはそう言うとドアに近寄ってノックした。すると中から男の声がして、少しだけドアが開けられた。


「ああ、ジェシカか。待っていたよ」


 出てきたのはやつれた中年男性。外見こそある程度変わっていたが、その声も顔の根本的な部分もジェシカが会おうとしていた人物――エヴァルドに間違いなかった。

 エヴァルドの姿を見たジェシカは一瞬だったが戸惑いを見せるも、冷静になり。


「待っていてくれてありがとうございます……戻らない可能性だってあったのに」


「いいや、君なら絶対に戻ってくるだろうと思っていたよ。君は、タリスマンの町を大切に思っているじゃないか。ここで話すのもなんだ。入りなさい」


 と、エヴァルドは言う。彼の言葉に甘えてジェシカと零はその家に入ることになった。


 家の中は片付けられており、子供たちが使っているような机と椅子がいくつか並べられていた。エヴァルドが案内し、ジェシカと零は別の椅子に座る。


「エヴァルドさん。今、タリスマンの住民のコミュニティはどうなっているんですか? 子供たちもそうだし」


「コミュニティか。それは……半分くらいは機能していない。生存者の捜索は私たちでやったが、中核にいたメンバーが殺されたことも大きい。ジャレッドが殺されて行き場を無くした人だっているし、犯罪に手を染めた者だっている」


 エヴァルドは重い口を開く。そのときの彼の顔には苦悩がにじみ出ていた。以前、ジェシカが見たときにそのような顔を見せることはなかったのだが。


「そう、ですか」


 と、ジェシカ。すると、彼女に続き零が口を開く。


「エヴァルドさん。あなたは、トロイ・インコグニートを知っていますか?」


 エヴァルドはトロイの名を聞いて表情を変えた。憎しみを表に出すような、忌まわしきものを思い出すような。


「知らないわけがないだろう……我々はトロイのせいで苦しめられていたのだ。確か、あの事件もトロイ・インコグニートのせいだったという」


 そう言いながらエヴァルドはジェシカを見た。


「ジェシカ。君のお父さんの死について、私も知っていることがある。聞きたいか?」


 エヴァルドの口から出た思いもよらぬ言葉。ジェシカは全く予想していなかったことで、狼狽したが――


「聞かせてください。というか、あなたがどうしてそんなことを知っているんですか。まさか」


「安心してほしい、私はジャレッドを殺していない。ただ、その殺した光景を偶然見たに過ぎないのだ……それだけは誓ってもいい」


 と、エヴァルドは言った。彼を信頼しているジェシカも、その言葉を信じることにした。


「ジャレッドは、緑髪の男に殺された。自殺に見せかけるのが上手くてね、2人がかりで偽装していた。直接殺していなくてもかかわったのは、もう1人。そっちは細身の女だったか。彼らが絡んだとき、明らかにジャレッドは異様だった――」


 そう言ったエヴァルドはため息をつく。すると、今度は零が口を開いた。


「見たのか……」


「間違いなく。完全なものではないが、写真が残っているんだ」


 と、エヴァルドは言って棚に置かれていた写真を手に取ると2人に見せた。

 その写真は一言で言うと、異様。1枚の写真に重なるような、塗り替えられたような複数の被写体――だが、その被写体となった人物はすべて同一人物に見えた。すべてチョコミントを思わせる髪の身長180センチ前後の青年だったのだ。さらに目を引くには彼の後ろにある、白い骨のビジョン。


「なんだと……」


 零は声を漏らした。


「ジェシカ。俺はこの人を知っている。この人は、かつてタリスマン支部に所属していたケイシー・ノートンだ」



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