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Dogma of Judas  作者: 墨崎游弥
前編 Unending Tragedy
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8 Drug Dealer

 不自然なクレーターのあった場所から少し離れた場所。ここは損害がそれほどひどくはないようだった。変わったところといえば、やはり人だろう。ストリート・ギャングの姿はなく、かわりに何かの売人が廃屋に入っていくのだった。


「今のがそう?」


 零に尋ねる恵梨。


「おそらくは。ストリート・ギャングとは違って服装に統一はないはずなんだが……」


 と、零は答えかける。そんなときに彼の脳裏に浮かぶ、先ほどの売人と同じ特徴を持った男の姿。零はその姿をした人物を見たことがある。


「恵梨。あの廃屋に入るぞ。ジェシカはここで見張りを頼む」


 零は言った。


「いいけど、あの中に何かあるってこと?」


「そうだな。よく見かけるし、気配がただもんじゃない」


「へえ……只者じゃないってならちょっと楽しみだなあ」


 と、呟く恵梨。その傍らで、ジェシカは髪の毛で視界を遮られているふりをしながら廃屋の様子を注視していた。割れた窓ガラスからは中の様子がよく見える。が、そこから見える範囲に人はいない。


「気を付けて。相手がただの売人だとは思えないから」


 ジェシカは言う。


「わかってるよ! ただ、室内で戦うのはちょっと厳しいかもだけど」


 と、恵梨。

 2人はジェシカに見送られながら廃屋に入る。一方のジェシカは近くの様子に気を配りながら剣に手をかける。売人が敵だったら。その売人以外にも敵がいたら。


 零は警戒しながら廃屋のドアを開けた。そこには誰もいないが、確かにそこに売人が入っていった。目印は黒いマスク。零と恵梨は警戒しながら進んでゆく。


「……あまり音を立てるなよ。気づかれたら俺達もただでは済まない」


 零は小声で言った。すると恵梨は無言で頷いた。さらに足を進める2人。そして――


「確かに受け取った。いやあ、あったはずのゲートがなぜか閉じたからなァ……」


 金髪で黒いマスクをつけた男が黒髪を長く伸ばした男に注射器を手渡している。彼らは周囲の様子を警戒しているようだったが、恵梨たちの様子には気づいていない。


「ゲートが閉じたって話ならよく聞いてる。近づくだけで変な能力に覚醒できるんだからな。命の保証はないが」


「関係ねえよ。それくらい安い。俺なんて死なねえ。謎の余裕があるんだよなァ」


 そう言いながら、長髪の男が注射器を腕に突き刺す。血管に直接刺さったのかは誰にもわからないが――覚醒薬の成分が彼の体内に入ってゆく。成分は早々に体内の神経や脳に入り込み――男の呼吸が荒くなる。下手をすれば死ぬことになるだろう。だが――


「耐えるのか。俺が売ったやつ、結構死んでいたはずなんだが」


「馬鹿言うんじゃねえ……俺は死なねえ!」


「死ななかったら値引きの約束通りイーサンの下で働いてもらうからな。下っ端として」


 売人が声をかけ、見守る中で男は顔を上げた。だが、彼の顔は直前とは全く違うようになっている。というのも、男の顔は白と黒のメイクが施されたようになっているのだ。


「やってやるよ……おら、コーディ。俺の名前を、ギャリー・ゴルボーンをハイリロ支部の名簿に登録しろ」


 息が上がりながらも男――ギャリーは言った。


「そう焦るな。俺達の組織の名前を口に出すな。敵に聞かれてんだろうが!」


 コーディは叫ぶ。


 ――気づかれた。


 コーディが振り向き、零と目が合った。すぐさま近くに置いていた傘を取ったコーディ。それが武器なのかと零が戸惑う間にコーディは傘から刀身を抜く。仕込み傘だ。

 コーディは強引にドアを開け、零に向かって仕込み傘を振り下ろす。零も氷の塊を作り出し、斬撃をガードする。


「恵梨は外に出ろ! 俺もすぐに合流する!」


 零は叫んだ。室内戦が得意ではないらしい恵梨をここに残すのは危険だと考えたからだ。その零もいずれは廃屋の外に出ることを考えている。戦うのはそこでいい。


「違うから。あんたも外に出るんだよ!」


 と、恵梨。

 零ははっとした。コーディの一撃で感じた恐怖。後ろにいるギャリーの実力は不明だが、コーディは確かに戦いの中で人を殺す力を持っている。零は氷の盾でコーディを仕込み傘ごと弾き飛ばし、氷の壁を作り出す。そして零は廃屋を出るのだった。


「恵梨。どう思うか? 俺達は見ていただけで何もしていないのにコーディとかいうやつは攻撃してきた」


「ええ……見ていたからだよね。見られたら困るものだったわけでさあ」


 恵梨は答えた。零の後ろからだったが、彼女もまたあの受け渡しの状況を見ていたのだ。さらに、買っていた方のギャリーもイデアという能力に目覚めたようだった。

 一つだけ言えることは、見たら消されかねないものを見てしまったということ。


 零とコーディは外に出て2人を待ち構える。外で待っていたジェシカは一瞬戸惑ったが。


「中で何かあったんだね。その焦りようからして。外に出たところで助かると決まったわけじゃないけど……」


 と言ってジェシカは背負っていた剣を鞘から抜き、片手で持った。彼女に続き、恵梨も薙刀を出し、その手に持った。その瞬間だった。


 ――乱入者がいる。今は晴れているけど、雨が降り出して。その乱入者は雨の中で……


「気を付けて。ジェシカ、零。敵は2人だけじゃないから」


 恵梨は言った。それがどういうことなのか――

 暫くすると廃屋からコーディとギャリーが出てきた。コーディは仕込み傘の刀身を、傘の形をした鞘に納めたのか傘を持っている。そして。


「室内戦だったからどうなるかと思ったぜ。俺もこっちが戦いやすい」


 と、コーディは言う。彼の周りには虹色の雲のようなものが展開され――一瞬で雨雲が広がったと思えば雨が降り始めるのだった。



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