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第四話 定番ですよね?

 


「——……ん……」



 目を、覚ます。

 未だぼんやりする頭を押さえながら、自分の体を見ると、どうやら寝転がっているようだ。



「ん~……、一体、何が……」



 上体を起こす。頭を二、三度振って意識をはっきりさせようとするが、中々うまくいかない。



「ここは、何処だ?」



 はっきりしない意識で、俺は辺りを見回す。

 そこは、宇宙空間の様な場所。辺り一面360度、星々の煌めきの様な光の点が明滅している。たまに流れ星の様に光点が流れて行くのが見えた。


 その空間を意識した途端、急に怖くなった。普段の生活の中で、少し高い所に立つと、体が浮遊する様な恐怖感、そう、高所恐怖症の様なあの感覚。

 当たり前だ。高所も高所、宇宙空間である。前後左右に足の着く所などなく、フワリフワリと浮いてはいるが、いつ落下していくか分からない。

 その恐怖に圧し潰されまいと、体を屈め、腕をかき抱いていると、ふいに、



「——ようこそ、私の世界を救う者よ……」



 俺の耳に、とても聞き心地のよい、澄んだベルの様な声が耳に入る。



「——誰だっ!?」



 多少ふらつきながらも立ち上がり、声の主を探すが、見当たらない。うぅ、この空間に慣れない。



「——落ち着いて、私の求めに応じた勇者よ」



 再び聞こえる声。ってか、求められても、応じてもいないんだが。



「あなたは誰だ!? ここは一体何処だ!?」



 声はこの空間に響くように聞こえてくるから、一体何処に居るのかも判らない。ただ、その声から、女の人であることは判る。



「そう怖がらないで、私の勇者。私はエルニア。ある世界で崇拝されている女神です。そしてここは、天上界。生命が生まれ、そして死んでいく。それを司る場所——」



 未だに何処にいるかは判らない、その女神とやらは、俺の質問に応じて答えてくれた。だけど、



「——失礼ですけど、顔も見せない貴女の言うことがとても信じられません」



 宇宙空間に上下の感覚が在るのかは分からないけれど、取り敢えずは顔を上に向けて、そう口にする。

 すると、



「——ちっ……」



 あれ? 何か今、舌打ちされた様な?



「——分かりました。今、姿を顕します」



 すると、野球ボール位の光の珠が何処からともなく現れると、俺の立つ前に止まる。そして、光を放った。



「うわっ!?」



 無意識の内に、その光から目を守る様に咄嗟に顔を避け、手をおでこに当てて日差しを作る。そうやって見ていると、やがて光は収まって、中から人が現れた。


 癖のある長い金髪に端正な顔付き、そして、出るとこはしっかり出て、引っ込む所はしっかりと引っ込んでいる抜群のプロポーションを、白くて薄いドレスで覆った、某夢の国でパレードカーに乗って手を降る、どこかのお姫様の様な絶世の美女が立っていた。


 キレイな二重瞼の目が、うっすらと開かれる。長いまつげがフワリと揺れた。少し垂れた目元が、見る者に柔和な印象を与えそうだ。



「これで、良いですか?」

「……は、はい」



 その声は、先ほどのやりとりの時と同じ声。では、この人が——。


 女性はフワリと笑うと、少しだけ頭を下げ、



「——では、改めて。私の名はエルニア。こことは違う次元軸にある世界、エルーテルを司る女神です。宜しく、私の勇者」


 女神エルニアはそう言うと、ドレスの端を持って優雅にお辞儀した。



「……ほ、本物の女神、様?」



 16年生きてきて、初めて目の当たりにした女神様を前に、口がポカンと開いてしまった。女神様なんて、電話を掛けたら繋がった女神様か、食べるのが好きな女神様位しか知らない


 そんな俺を見た女神様が、口に手を当ててクスクスと笑う。



「はい。信じてもらえますか?」

「あ、あぁ。——いえ、はい」



 俺の答えが満足のいくものだったらしく、女神様は「良かった」と、優しい表情になる。



「そ、それでそのなんで俺、いや、僕はここに居るんですか。たしか、本屋に居たと思うんですけど?」



 恐る恐る、自分の前に立つ女神様に質問してみる。

 すると、俺の質問に待ってましたと言わんばかりに、顔をパアッと明るくさせ、



「その質問を待ってました。実は——」

「あ!もしかして、僕は死んでしまったのですか?」

「え? いえ、貴方は死んではいませんよ。それで、貴方がここに居る理由なのですが——」

「あ、じゃあ、転生じゃなくて、転移ってやつてすか?」

「は、はい。そうですね。正確には私が召喚したと言った感じでしょうか。それで、私が貴方を——」

「じゃあ、あれですか? 女神様が僕を召喚して、どっかの世界を救ってこいみたいなやつですか?」

「え、えぇ。そ、そんな感じなのですが、少し私の話を聞いて——」

「うわ、うわー! こんなのホントに有るんだっ!? マジか!? マジかー!?」

「ち、ちょっと——」

「どうしよう!? 俺が世界を救う!? ランナーも刺したことの無い俺が?! いやいやいや無理だって~!」

「……」

「で、でもなぁ。どうしても俺じゃなくちゃ駄目って言われたら、やっぱ考えちゃうよなぁ」

「……ぉい」

「でも、俺には無理だって~。無理無理!」

「……聞けよ……」

「でも、ご褒美に女神様のキスとかだったらどうよ~?」

「……おい、こら……」

「その時はキスだけじゃなくてさ、なんかもっとこう、男子高校生が喜んじゃいそうな——」

「私の話を聞け~~~!!!」


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