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第三話 馴染みのお店

 


「はぁ~、ほんとに最悪だ……」



 学校から駅までの道のりを、俯き、溜息混じりでトボトボと歩いていく。俺は昔からこうなのだ。男の三人兄弟が原因なのか分からないけれど、女の子の前でだと極端に緊張してしまうのだ。要は女の子に免疫が無いのである。

 だから、女の子の前から逃げ出してしまいたくなる。別に過去に何かあったわけじゃないんだけど。



「はぁ、須原さんに嫌われちゃったよなぁ……」



 須原さんからしてみれば、ほんの少し挨拶、世間話にもなっていない会話をしただけだ。なのに、目の前に居た男の子は、顔を真っ赤にして逃げ出した。これで嫌われない訳が無い。



「はぁ、俺も球也みたく、女の子にモテたい!……とまでは行かないけど、せめて普通に話せる様になれればなぁ」



 止まらない溜息と後悔。ほんと、自分が嫌になってしまう。



「はぁ、いつまでもウジウジとしていても始まらないし、せっかく練習が休みなんだ。どこかに行って気分でも変えようか。——そうだ! たまにはあそこに行って見るか」



 このまま落ち込んでいてもしょうがない。こういう時は自分の好きな所に行くのが一番だと、カバンを背負い直した。



 駅までの道を少しだけ外れた所にある、寂れた一軒の本屋さん。

 ここの本屋さんは、他の本屋さんと違って、ラノベの取り揃えが半端ない。置いていない作品は無いじゃないかって噂になる位だ。

 ラノベ好きの俺としては、ここに来るだけで元気になれる。まさにセルフパワースポット。


(さて、そろそろ新刊が出ているはずなんだよな~)


 今時、自動ドアになっていない店も珍しいが、この本屋さんもその一つ。でもそこがまた良い。

 ガラス製の片開きのドアを開けると、カランっと、ドアに付いている来客を知らせる鈴の音が店内に鳴り響く。

 店内に入ると、ずらりと並ぶ本棚。俺のお目当てであるラノベはもちろん、普通に参考書やコミック、雑誌に文庫本なども結構な数があり、この本屋さんの主人である、いつも毛糸の帽子を被って、店の奥のカウンターに座っているお爺さんが、とても本が好きなのが伝わってくる。そして、青少年男子憧れの18禁のあの本たちも理路整然と並べられている。しかもここのお爺さんは、明らかに18歳以下であろう俺たち位の男の子が、勇気を振りに振り絞って、エロ本を手に取りカウンターに行くと、震える手でサムズアップしてくれるらしい。いや、俺は買ったことは無いけどね。

 だが、前にこの本屋でエロ本を買おうとしていたクラスの勇者が、その本を持ってカウンターに行った時に居たのは、その毛糸帽子のお爺さんでは無く、お孫さんであろうか? 二十歳くらいの可愛らしいお姉さんで、盛大に爆死していた事があった。


(さて、ラノベのコーナーは——、お、有った)


 少しだけ埃臭い、だがそれが妙に落ち着く店内を廻り、お目当てのラノベコーナーを見つけると、自分が好きなラノベの続刊を探していく。


(あれ~? 確か今週だったと思うんだけど……。来週だったかな?)


 所々に隙間の空いたラノベの本棚を、指でつーっと指しながら探して見たが、無かった。


(しょうがない、なら、新規発掘してみるかな?)


 このまま帰るのも何だか寂しい気がした俺は、新しいラノベを探す。


(お、これなんか良いかな?)


 面白そうなタイトルの本を見つけて手に取り、パラパラと中をめくる。


(うん、絵も好みだし、少しだけ読んでみるかな……)


 俺の中の基準で、まずは気になる本のタイトル、そして中の絵を見て気に入れば、最初の冒頭を少しだけ読む。そして良さそうだなとなれば、そのままカウンターにゴーである。


(どれどれ……)


 鞄を床に置き、パラりと冒頭部分を読み始める。この本屋の主人であるお爺さんは、立ち読みしていてもほとんど気にしない。好きなだけ読んで気に入ったら買えば良いというスタイルなのかもしれない。エロ本の件もあるが、ここのお爺さんは解る大人である。


 静かな時間が流れる。たまに耳に入るカチコチとした音は、店のカウンターの上に付いている、鳩時計のそれだろう。


 そうして暫く、



「……ん?」



 唐突に気付く。その異変に。



「なんだ、これ?」



 俺の立つその下がぼんやりと、しかしはっきりと光っている。



 ——ミツケタ——



 耳に入る雑音。

 その瞬間、床面の光は急激に光を増し、円を描いていく。



「うわっ!なんだ、これ!?」



 思わず手に持っていた本を落としてしまうが、床に接する前に、ヒュンと消えてしまった。



「えっ!?」



 さらに光を増す、光の環。それは良く見れば、ラノベで良く書かれている様な魔法陣によく似ていて——



「マジか、よっ——」



 そう言うのが精一杯だった。


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