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第十八話  名付け

 


 悪い子自慢をした所、女神に憐れみを受けた俺。たしかに、一つの世界を司っている女神に対してでは、たかが犬一匹に復讐した話なんて、何も響きやしないってなもんである。



≪コホン、平さんの浅い人生話は置いといてですね≫

「置いとかないで、お願いだから」

≪いいえ、話が進まなそうなので、置いておきますっ。さて、こうして平さんの善行と悪行を見比べてみた訳ですが、どうでしたか、平さん?≫

「生きていくのが辛くなった」

≪まぁまぁ、平さん。別に平さんに消えない傷を負わせる為に、わざわざ見せた訳じゃないのですよ?≫

「そうなのか? 俺はてっきり、女神様が俺を精神的に殺そうとしているのかと思ったよ」

≪神々の契約で、平さんをちーとにしようって約定を交わしたのに、廃人にしてどうするんですか……。さて、今、平さんにも見てもらった様に、平さんは善行も悪行もしていましたね? ですから与えられた370ポイントに文句はございませんよね?≫

「うん、文句言わないから、俺の心の傷を治して……」

≪それは、自業自得なので自分で治してください。——さて、それでは次に、実際にその善行ポイントを使ってみましょうか≫

「実際に、使う?」

≪はい。使ってみなければ、善行進化がどんなに素晴らしいものなのか、平さんに理解して頂く為に、使ってみましょう!≫

「まぁ、確かに実際やってみないと分からないしな。——それで、どうやるんだ?」

≪……もうすっかりタメ口ですよね……。私、女神なのに……。神なのに……≫

「……敬語にしましょうか?」

≪……いえ、何か今さら感もありますし、平さんはそんな感じなんだなって思ったので、もういいです。……ほんとに平さんて女性が苦手なんですか?≫

「女性どころか、初対面の人も苦手だぞ。初対面の女性になんて、絶対にこっちからは話せないし、一生分かり合えない自信があるぞ」

≪悲しい自信ですね、それ。 まぁ、良いでしょう。 平さんが私に心を開いてくれたと思えば≫

「それだな。もう女神様は俺の中では鈴子に次いで、馴染みの女性だよ」

≪鈴子さんていうのが、どなただか分かりませんが、まぁ良いでしょう。さて、話が大分脱線しましたね。それでは早速、善行ポイントを使っていきましょうか≫

「おう! 宜しくお願いします」

≪そこだけは礼儀良いんですね。——まずは善行カードを目の前にかざして目を瞑り、意識を集中してください≫

「はい。……集中したぞ」

≪そうしたら、先程と同じ様に、善行ステータスの画面が出てきますよね≫

「……はい、出て来た」

≪そうしたらまた、ページを捲る様に画面を変えて、善行進化の画面にしてください≫

「……はい、ページを変えた」

≪では、その中にある項目の中から一つを選んで使って見ましょうか≫

「選んでって……、どれが良いのか……」



 今、俺の脳裏には、善行進化画面が浮かんでいる。その項目はほんとに多岐にわたっており、すぐさまこれと決められないでいると、



≪——では、こうしましょう。——起きなさい、私の使い天使……≫

「……はい、お呼びでしょうか」

「うわっ、起きたっ!?」



 女神様の呼び掛けに、俺のベッドで横になっていた使い天使ちゃんが、シュタッと俺の欠けた毛布を跳ね除けると、フローロングでピカピカ光っている光の玉の前で跪いた。



≪——あなた、まだ名前が付いていなかったわよね?≫

「……はい……」

≪——うん。平さん、この子の名前を付けてもらえませんか?≫

「……はい?」



 光の玉が明滅し、女神がそんな事を口にした。



≪だから、善行進化を使って、この子の名前を付けて欲しいのです≫

「……意味が解らないんだけど。第一何故、善行進化で他人に名前が付けられる様になるんだっ?」

≪今回は特別にです。それに、他人に名前を、といってもあだ名とか、ニックネームを付ける事も、考えようによってはちーとって考えられませんか……≫

「……どういう事だ?」

≪だって、自分が付けたあだ名が、その相手に認識・定着すれば、それはその子の人生に小さいかもしれませんが、影響を与える事になるのですよね? これって、ちーとになりませんか?≫

「……う~ん、どうだろう……」



 確かに、他人にまで影響を及ぼす様な行為は、チートと言えるかもしれない。だけど、俺の考えているチートは、もっと簡単な、自分が周りと比べてとても優れてるっ!って感じの奴だったのだけど。——もしかして、この女神が考えているチートはもっと、途轍もない事なのかもしれない。



≪……ま、良いでしょう。取り合えず、この子に名前を付けてもらっても良いですか? これから共に過ごすっていうのに、名前も無いのでは何かと不便でしょう?≫

「……そ、そりゃあ、そうだけど……」



 そこで、視線を使い天使ちゃんに向ける。確かに用事がある度に、毎回使い天使ちゃんと呼ぶのは、いちいち長いし、これでは仲良くなれる気がしない。女神のいう事には一理あるのも事実で。



≪あなたもそれで良いですよね?≫

「……お望みのままに……」

≪宜しい。——では、平さん、お願い出来ますか?≫

「……いいのか?」

「(コクリ)」


(……使い天使ちゃんもこう言っているし、嫌なら後で変えて貰えばいいか)



 そう一人納得すると、顎に手を当てて考えた。

 女神が出現させた使い天使とはいえ、曲がりなりにも女の子、しかもかなりの美少女である。変な名前は付けられない……。



「……う~ん、使い天使だろ……」

「……違う……」

「ん? 何がだい、使い天使ちゃん?」

「……それが、違う……」

「それって、使い天使って事が?」

「(コクリ)」

「どういう事かな?」


 すると、光の玉に跪いていた使い天使ちゃんが徐に立ち上がると、胸に手を当てて、



「……私は天使じゃない……」

「え、そうなの?」

≪あ、こらっ≫

「……そう、私は使い魔……」

「使い魔? 魔族なの?」

「……違う。使い魔の魔は、魔力を持つ者、という意味。だから私は、使い魔……」

「……へぇ、そうなんだ……。なら、なんで天使なの?」

「……分からない。女神様の好み……?」

「へ、へぇ……」

≪そうですっ。使い魔よりも使い天使の方が可愛いじゃないですかぁ♪≫

「……まぁ、そうかな?——なら」



 改めて考える。使い魔、つかい魔、塚井魔……——。よし、決めたっ!



「決めたよっ! 君の名前は塚井魔子で——」

「……却下……」

「えぇっ! なんでさ?! 解り易くて良いと思うのにっ!?」

「……安易。それにちょっと卑猥(ひわい)

「卑猥って、そんな事無いと思うけどなぁ……」

「……もっと、良い名前が良い……」

「そう? う~ん……」



 人の名前を考えるのが、これほど難しいものだとは思わなかった。生き物を、飼った事も無いそんな俺が、人の名前を考えるなんて、そりゃ、難しいってものである。

 そうしてまた、無い頭を使ってウンウン唸る。塚井魔子は解り易くて良いと思う、だから、その考え方は間違っていない筈だ。要は魔子って部分が良くないのだろう。



「塚井魔子が駄目で……。でも解り易くて……。——よし、これだっ!」

「……」

「決めたぞっ! 君の名は——」

「……私の名前、は……?」

「君の名は、——塚井舞だっ!」

「……」


(あれっ? リアクションが薄いぞ……? これも駄目だったか——)


 確かに塚井魔子とそんなに変わらない。これも安直過ぎたかっ!?



「……いい……」

「……はい?」

「……とても、良いと、思う……」

「……あ、そうですか。それはとても良かったです」


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