第十五話 善行進化
≪さて、続きを説明しても?≫
「……はい、お願い、します……」
未だに夢心地な俺。その耳に女神様の説明が入って来る。
≪では、——各ステータスに関しては、ゲームやラノベが大好きな平さんには問題無いとして、そこにある善行レベルですが——≫
「……まさか、善行にレベルがあるんですねっ!」
≪……平、さん?≫
「……あ、済みません……」
≪全く。変わりませんね、平さんは。 コホン、そうです、平さんの仰った様に、善行を重ねていく内に、そのレベルが上がって行きます。そうなると……≫
「……そうなると、なんですか?」
≪おや、今回は平さんでも解りませんかぁ?≫
「……いじわるしないで、教えてもらっていいですか?」
≪クスクス、良いでしょう。レベルが上がると、それまで行ってきた善行では、同じだけの善行ポイントを得る事が出来なくなります。例えば、老人の荷物を持って、10ポイントの善行ポイントを得られていたものが、善行レベルが2に上がると、大体ですが半分程になります≫
この場合は半分の5ポイントですね、と付け加えた女神様。
「そんな……。それじゃあ、レベルを上げるとデメリットしか無いじゃないですかっ!?」
≪いえ、そんな事は有りません。そこで出てくるのが、善行ポイントの使用です≫
「善行ポイントの、使用?」
≪はい。貯まった善行ポイントは使う事が出来ます。さて、平さん。今写っているステータス画面なのですが、少し意識して、ページを捲る様にしてもらえますか?≫
「ページを、捲る……」
そう意識すると、ステータス画面がパラりと変わり、違う画面になった。こ、これは——!?
「な、なんだ、これっ!? 〈素早さ +1〉? 〈二重瞼になる〉? 〈臨時収入 10万円〉!?」
≪そう。それこそが、善行ポイント制度の一番の醍醐味っ! 【善行進化】よっ!!≫
ちゅど~んと、大きな爆発が光の玉の後ろで起きる。人の部屋で何てことしやがるっ!
「……善行、進化……」
≪そうです。平さんの言っていたちーとでしたっけ。あれを私なりに理解した結果、この善行強化を生み出しましたっ!≫
「あんまし、かっこ良くない名前ですね……」
≪何、失礼な事を言っているのですか、平さんっ! 私が一晩掛けて考えた名前なのにっ!≫
(一晩……、浅ぇな……)
≪まぁ。名前なんかどうでも良いんです。要は中身ですよ、中身っ!≫
「は、はぁ、そうですね。それで、その肝心の中身ですけど、一体これって……」
良く見ると、色んな項目が事細かに設定されているようだ。その項目の横には、何やら数字も書いてある。
≪よくぞ聞いてくれました。これはですね、平さんが色んな善行をした事で稼いだ善行ポイントを、そこに書いてある進化項目と交換出来るという、画期的な物なのですっ!」
「はぁ。そりゃあ、画期的ですね~。(いや、ポイント交換なんて、何処にも有るから。図書カードとか、買い物カードとかよ)」
≪ふふん、そうでしょう? やっぱり、私って天才なのかしら≫
「ソウデスネ。それで、そのポイント交換ってどうすれば良んですか?」
≪……何でしょう? ここに平さんは居ないハズなのに、何故だかとても呆れた目で見られた様な……。——まぁ、良いでしょう。それはですね、願うのですよ≫
「願う、ですか?」
≪はい、願うのです。簡単ですよ。例えば、足を速くして欲しいと願い、その必要な分の善行ポイントが貯まっていれば、その善行ポイントを消費して、その願いが叶うのです≫
「それは、凄い……」
確かに良い事をしてポイントを貯めなくてはいけないが、それさえしてしまえば、ここに書いてある願いが叶うという事だ。条件付きだが、まさにチートと言えるだろう。
「凄いですよ、これっ! 確かにこれを使えばチートになれますよっ!」
≪ふふん、そうでしょう? もっと私を褒めてくれても良いのですよ?≫
「はいっ! よ、女神様、良い女! 大統領っ!!」
≪……大統領だと、女神より下の気がしますが、褒められている感じは伝わってくるので、まぁ良いでしょう≫
「それで、その善行レベルはどういった影響があるのですか? さきほでの女神様の口調ですと、何やらメリットがあるみたいな事を言っていましたが……?」
≪ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれました≫
悪の親玉みたいな笑い方をする女神様。
≪今、平さんの進化ページは、善行レベルが1の平さんが叶えられる願いしか書かれていません。と、いうことは……?≫
「——レベルが上がると、叶えてくれる願いが増えるってことですかっ!?」
≪ピンポーンっ!正解でーすっ!≫
相変わらずノリの良い女神様。そのノリの良さのせいで、そのオパーイの貞操の危機って事にならなければ良いけれど。
≪レベルを上げるのは結構大変だと思いますが、しっかりと善行を積み重ねれば、自ずと道は開かれます。千里の道も一歩から。まずは簡単な善行から初めて、徐々にポイントを重ねて行ってもらえば良いと思いますよ≫
「はい……」
女神様が、女神様っぽい事を言ってくれた。
≪さて、では平さんが今まで生きて来た中で、積み重ねてきた善行をポイントにしてみましょうか≫
「……え?」
(——今、何て……?)
≪何をポカンと間抜けな顔をしているのです?≫
「だ、だって! 俺はこれから行う善行がポイントになっていくのだとばかり……」
≪クスクス、それでは今まで平さんが行ってきた善行たちが、可哀想ではありませんか≫
何を言っているのですとばかりに、平然と言ってのける女神様。その度量というか、慈悲深さというか、そういったものが光の玉、女神様から感じられた。ほんと、さすがだよ。
≪さて、それでは早速計算してみましょうか≫
「はいっ、お願いしますっ!」
そう言うと、光の玉が激しく明滅し始めた。
「——女神様?」
≪……はい?≫
「……何をやっているのです?」
≪今、平さんの積み重ねてきた善行を調査しているので、少し待っててください、ね……≫
「は、はい」
女神の邪魔はしない様にと、それきり黙っている事にした。その時ふと、ベッドに座っているであろう、使い天使ちゃんが気になったので、顔を上げ、ベッドの上を見てみると、
「……すぅ、……すぅ……」
「……ん?」
コロンと、俺の使っているベッドに横たわり、可愛い寝息を立てていた。か、可愛い。
彼女居ない歴=年齢の俺にとって、自分のベッドに、こんなにも可愛い女の子が寝ているこの光景自体、チートの様な気がしてならない。
「……ん……」
その時、ベッドに横たわる使い天使ちゃんが寝返りを打つ。ピッタリとした、黒のタートルネックのカットソーを持ち上げる双丘に、思わず目が行ってしまう。
だが、今、女神様は俺の善行を調べてくれているのだ。その善行に傷を付ける様な事はしたくはない。邪心を振り払うように首を横に振ると、椅子から立ち上がり、使い天使ちゃんの眠るベッドに近付き、
ファサッ
ベッドの端に畳んで置いていた毛布を広げると、使い天使ちゃんに掛けてあげる。フニャっと顔を幸せそうに歪める使い天使ちゃんを、見飽きる事なく見詰めていると、
≪——良く、襲いませんでしたね?≫
「……女神様が、俺をどういった目で見ているのか、とても気になりますね……」
≪フフッ、それは、内緒ですよ♪ さて、調べ終わりましたよ≫
「……それで、どう、でしたか?」
≪はい。えっと発表する前に、平さんは小さい頃のご記憶をどこまでお持ちなのですか?≫
「小さい頃の記憶、ですか……?」
う~ん、と腰に手を当て考える。女神様の意図が見えないが、わざわざ聞いてくる位だから、何か関係があるのかもしれないな。
「……そうですね……。おそらくは幼稚園くらいだと思います。そこで、仲の良かった子と鬼ごっこをした記憶が、なんとなくありますね。あとは……」
≪あと、は?≫
「あとは、前に女神様に言った怖い夢を見たのが、大体それぐらいの時だったかなぁ、と」
≪……分かりました≫
そこで、光の玉が明滅すると、
≪それでは、平さん。貴方の現在の善行ポイントを、発表致しますっ!≫
デデデッ~と、よくテレビの演出で使われる、小さな太鼓の連続音を口で出す女神様。その雰囲気に呑まれ、知れず緊張する俺。そして、
≪——デンっ!! 善行ポイントは——≫
「善行ポイントは!?」
≪——CMの後に続き——≫
「続かねぇよっ!」