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第十四話  ようこそ、夢のステータス画面

 


「うわぁぁっ!!」

「……」



 突然、部屋に聞こえ響く女性の声。その声に、俺は我に返ると、目の前の女の子を少し押し返すと、天井に向かい、



「だ、誰だっ!?」

≪あらぁ、お邪魔しちゃったかしら~? なんてね、冗談♪ あれぇ、平さん。私を忘れちゃったんですかぁ?≫

「忘れるって、一体……」



 目の前の美少女ちゃんのそれとは違い、同じ忘れちゃったのという言葉でも、何処か揶揄(からか)う意図が含まれたソレ。



≪あ~、ヒッドイですねぇ。これだから、男っていうのは。す~ぐ、若い子に鼻の下を伸ばすんだから~≫

「だから、貴女は一体——」



 そこまで言って、不意になにかの懐古的な感情が、己の中に在る事に気付いた。これは、一体……?



≪んもうっ! あれほど私の胸に熱視線を浴びせたっていうのになぁ。冷たいなぁ、平さんは≫

「だから一体?! 胸に熱視線って、一体……、なん……ですか——」



 胸という言葉を口にした途端に、頭の中から現れる、狂暴的なシルエット。それはまさに人類の英知そのものの存在っ!!


 そして同時に思い出す。その人類の英知を遙かに超える存在を。



「————もしかして、女神、様ですか? 女神エルニア、様?」

≪はーい、ピンポンピンポン~。正解で~す♪≫



 その声は、もう会えないをその口で言っていた、女神エルニア様、その人である。

 俺は、少しだけ懐かしく思い、



「お久しぶり?です、女神様。どうしたんですか、突然?」

≪んもう、どうしたもこうしたも無いわよっ。平さんと使い天使ちゃんはどうしてるかなぁって視てみたら、一体どこの恋愛ゲームなのっ!?って位、熱いシーンを見せ付けてくれるんだもの。そりゃあ、止めにもはいるわよぉ≫

「あ~、なるほど——」

≪———良い、平さん?≫



 急に声のトーンを変える女神様。その瞬間、部屋の温度が急激に下がった気がしたのは、気のせいでは無いだろう。



≪そこの可愛い、使い天使ちゃんにそういう事されると困るの。せめて、私の許可を取ってからにしてくれます?≫

「……はい、済みませんでした……」



 有無を言わさない女神のその迫力に、ただ、頷くしか出来なかった。



≪ん、宜しいっ! んで、平さん。もしかすると、記憶、無くしてたんですね?≫

「はいっ、そうなんですっ! いや~、覚えていたら、使い天使ちゃんにあんな事をしなかったのになぁ」



 そう言って、後頭部をポリポリと搔く俺に、≪どうだか≫などと突っ込みを入れる女神様。

 少し気まずい空気になったので、それを変えようと咳払い一つしてから、



「それで、どうしたんですか? 俺の記憶が無くなっているのなら、そのままにしておけば、その方が都合が良いのでは? あの時の契約事項だって簡単に守られたはずじゃあ?」

≪確かにそうなのですが、ちょっとしたタイミングで思い出す事もあるかもしれないじゃないですか~? だから心配になって。 それに契約の事なら、私もそうですけど、平さんの事もありますし≫

「俺の、契約? ……あっ」



 そうなのだ。この女神エルニア様と交わした、神々の約束では、エルニア様は天上界の秘密を、俺は現実世界に於いてのチート能力をそれぞれ約定したのだ。

 俺の記憶が無くなった事は、女神エルニア様の約定を果たすには都合が良いが、俺の約定を果たすには確かにとても都合が悪い。



≪だからこうして、こちらから平さんに話掛けているのですよ≫

「なるほど。それはご親切に」

≪いえいえ、契約ですから~≫



 そこで、話を一拍置いた女神様。



≪——それで、どうですかぁ? 善行カードの説明をその子から受けましたかぁ?≫

「……いえ、そのカードの事すら忘れていました……」



 気持ち悪いと公園に置き去りにし、使い天使ちゃんがわざわざ持ってきてくれた、七色に光るカード。その名も善行カード。


 女神様から多少の説明を受けはしたが、その全容に関して、まだ説明していない事があるのだろう。

 それをこの使い天使ちゃんから受けろって事か。



≪あら。じゃあ、ちょうど良かったわ。私も一緒にいるから、——説明、お願いね?≫

「……はい……」



 女神様の言葉に一つ返事をすると、使い天使ちゃんは持っていた善行カードを俺に手渡す。



「あ、ありがとう」

「……いえ。……それでは、説明を……」

「あ、じゃあ、立ちながらってのもなんだから、座ってよ」



 そう言って、ベッドを指差すと、そちらを振り向いた後に、コクリと首を縦に振りベッドに腰掛けた使い天使ちゃん。俺は学習机に備え付けられている椅子に、背もたれを前にして——ちょうど、ベッドを見る様な恰好で——座る。


≪なんです~?若い女の子をベッドに行かせるなんて、何か魂胆でもあるんじゃないですか~?≫と、揶揄ってくる女神様を無視して、話を促した。



「——それで、善行カード(こいつ)の説明ってことだけど……」

「(コクリ)」

「俺があっちで受けた説明だと、たしか善行を行うとポイントが溜まる、要は、良い行いをすると、そのカードにポイントが溜まる仕組みになっているって事なんだけど……」

「(コクリ)」

「良かった、合っていたみたいで。……それで、それ以外に何かあるのかい?」

「(コクリ)」


(なんだか、なぁ……)


 頬をポリポリと搔く。すると、



≪ちょっと! それじゃあ説明にならないでしょ! 平さんも困っているじゃない≫

「ま、まぁまぁ、女神様。じゃ、じゃあ、僕が質問するから答えてくれるかな?」

「……うん」

「そ、それじゃあ。えっと、その善行ポイントなんだけど、それって、どんな良い事でも良いの?例えば~、お年寄りの荷物を持つとか?」

「……うん」

「落ちていた財布を交番に届けるとか?」

「……うん」

「……他には、う~ん……」

「……」

≪ちょっと、それじゃあ説明にならないでしょっ! いいわ、私が代わります≫



 その女神様の言葉と同時に、部屋の中にフワリと、まるで綿帽子のような光の玉が生まれる。


≪さて、平さん。私が代わりに受け答えするから、何でも聞いてください≫



 その女神様の言葉と連動する様に、綿帽子の様な光の玉は明滅していた。



「は、はい、それじゃあ——」


(おいおい、使い天使ちゃん、機嫌損ねて無きゃいいけど……)


 改めて、女神様に質問しようとして、ベッドに座る使い天使ちゃんを見る。さぞかし落ち込んでいるのかと思いきや、



「……」



 特にその表情を変える事無く、時たまに足をブラブラとさせていた。その可愛らしい様子に、軽く胸を撫で下ろすと、俺の座るベッドと、使い天使ちゃんが座るベッドのちょうど中間点辺りのフローリングに降り立った光の玉に向かって、



「その善行ポイントって、さっき言った様な、お年寄りの荷物を持って上げたり、落ちていた財布を交番に届けたりで上がるって言ってましたけど、そのポイントって同一ですか?」

≪いえ、違います。その善行を行った時に、己の何を対価、例えば時間とか、知識、体力、そういった物を、その善行にどれだけ使用したかによって、大きく変わります。例えば、同じ老人の荷物を持って上げたとしても、すぐそこに届けるのと、移動手段の無い場所や遠い、高い場所などでは、貰えるポイントは大きくなります。これは、感謝される度合いが大きくなる事と比例していると考えて貰って結構ですよ≫

「なるほど……」



 こう言っては、使い天使ちゃんが可哀そうだが、さすがは女神様だ。解り易い。



≪そして、そうやって善行を行い貯めたポイントですが……、平さん、ちょっと、お手持ちのそのカードをご自身の目の前にかざして貰ってもいいですか?≫

「? はい、分かりました」



 女神様の要望に応えると、持っていた善行カードを目の高さまで持ち上げる。



≪はい、結構です。では、平さん。 目を閉じて、カードに向かって軽く集中してもらえますか?≫

「——集中、ですか……?」

≪はい、お願いします≫

「はい、分かりました」



 女神様に言われた様に、カードに向かって意識を集中させる。すると、脳裏に何やら浮かんできた。



「な、なんだ、これっ!?」

≪うふふ。それは【善行ステータス】です。今、自分にどれだけの善行ポイントが貯まっているのかが解るほか、善行レベルなども解る様になっています。あとは基礎ステータスですね、体力、知力——≫

「ち、ちょっと待った、女神様っ!!」

≪はい? どうしましたか?≫

「いや、どうしましたかって……、そんな簡単な……」



 俺は驚愕の余り、何も言えなくなってしまった。だって、あれだけゲームやらラノベやらに出て来た、あのステータス画面が、この現実世界に表れているのだから、そりゃ驚くに決まっている。



「こ、このステータス画面だけで、僕の感動はとんでもないですよ……」



 震える声で、女神様にそう告げると、



≪うふふ、それは良かったです≫



 可愛らしい笑い声が聞こえてきた。きっとあのオパーイも嬉しそうに笑っているに違いない。


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