表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/180

第七十九話  弓以外にも使えるのか?

 

 俺がギルバードに投げた一対の短剣も、ミケのナイフや装備一式、そして今着ている革鎧と同じ様に、多比良姫様のお屋敷にあった物だ。


 雀宮さんにブツブツ言われる程に、物に溢れていたであろう自分の部屋を断捨離した多比良姫様が、その手に抱えて持ってきたゴミ、……もとい宝の山の中に、埋もれていた一対の短剣。


 多比良姫様が抱えてきた物を、一旦俺のアイテムボックスに入れた後、表に出て、雀宮さんが用意してくれたゴザの上に全て出し、「あ~、これはゴミだな」「これは、何だろ?」等と整理していた所に、やって来たギルバードが、「こ、これは……!」と、手を震わせながら取り出したのが、翡翠色と呼ばれる、淡い緑色をしたその二本の短剣だった。

「気にいったのなら、持ってって良いぞ」とギルバードに言ったが、ギルバードは頭を軽く振って、「私はエルフですからね、これは凡太が預かっていてください」と言ったきり、一度も手にしなかったのだ。多比良姫様のお屋敷で、たまに見かけたミケや天狗の天さん相手の模擬戦でも、この世界に来た時に持っていた愛用の弓で戦っていたから、ギルバードが短剣を使う所を見た事が無い。



「凡太っ! ギルさんは短剣を使えるのかにゃ!?」と、いつの間にか俺の横に来ていたミケが、尋ねて来る。



「いや、分からん! ミケと模擬戦をしていた時に使った事は無いのか!?」

「無いにゃ! あのカラスとの模擬戦でも、使った事は無いと思うニャ!」

「……大丈夫なのか、ギルバード!?」



 逆にミケに尋ねると、やはり俺の予想通りの答えが返って来た。その事に不安が増していく。



『エルフが、弓以外にも使えるのか?』



 すると、金銀の斧を両手に持ち、『ブフゥ!』と息を吐いたオークが、まさにタイムリーな質問をギルバードに振る。

 その質問を受けたギルバードは、両手に持つ短剣の柄の部分を何度も握り締め、その感触を確かめながら、オークに答える。



「お疑いですか? ならば実際に()ってみた方が早いでしょう」

『そうだ、な!』



 ギルバードの答えを受けたオークが、楽し気にその口を歪めると同時に、ギルバードに向けて突進していく! それは、さっきまで繰り返していた、アメフト選手のタックルの様な突進では無く、金と銀、両方の斧を持つ両手を大きく広げ、まるで何処にも逃がさないという強い意思を表しているかの様な突進だった。

 両手を広げれば、それだけ空気の抵抗が増すと思ったのだがそんな事は無く、先程までの態勢を低くしたタックルと変わらないスピードで、ギルバードへと突っ込んでいくスピードに、実況のお姉さんもマイクに向けて叫ぶ!


 《オーク選手が物凄い速さで、ギルバード様に襲い掛かるぅ! 何とか逃げてぇ、ギルバード様ぁ!》



 相変わらず、ギルバードへの好意が溢れている実況のお姉さん。そのお姉さんの言う様に、とんでもない速さで一気に距離を縮めるオークは、迫る勢いそのままに、右手に持っていた金の斧を、目の前まで迫ったギルバードへと叩き付ける!



「ギルバード!」



 思わず声を上げてしまう程、オークの攻撃は早かった! 突進の勢いを乗せたというのもあるのだろうが、それだけじゃない! オークの力量の高さが窺えるほどの鋭い一撃!


 対するギルバードは、ぶらりと下げていた両手の短剣を、スッと持ち上げる。そして、袈裟切りにしようと襲ってくる金の斧の刃に短剣を添えると、体を捻る。すると、捻りの力が加わった短剣は、斧の刃をまるで滑らせる様に弾き、あらぬ方向へと向かって行く!



『ぬうぅん!』



 金の斧の攻撃が逸らされた事で、体勢が崩れるかと思ったが、そこはネームドのオーク。微塵も体勢が崩れることなく、今度は左手に持っていた銀の斧を、目の前にあるギルバードの頭頂部へと叩き込んで行く!


 が、体を捻った勢いのまま、体を独楽の様に一回転させたギルバードは、襲ってくる銀の斧の刃に、先程と同じ様にして、短剣の刃を合わせると、また刃を滑らせていく。だが、少しだけ無理が有ったのか、「ギィイン!」と、先程は鳴らなかった金属音が鳴り、小さな火花が散る!



 多少の違いは有るが、金の斧と同様に銀の斧も弾かれたオークは、さすがに少し体勢を崩す。が、予想の範囲内だったのか、焦った感じは無く、軽くバックステップをして、少し距離を取ると、何故か嬉しそうに嗤うオーク。



『なるほど、まったくの素人ってわけでは無さそうだな』

「えぇ、まぁ。どちらかというと、弓よりこちらの方が得意みたいでして」



 と、短剣の刃を重ねて、身構えるギルバード。その姿に、さらに笑みを濃くしたオーク。



『なるほど。ならば、もっと楽しませてくれるのだろうな!!』

「えぇ、お望みとあらば!」



 と、ギルバードと同じ様に、左右の手に持つ金銀の斧を目の高さに重ねると、ギルバードへと突っ込んでいく! それを迎え撃つギルバードもまた、重ねた短剣を目の高さまで上げる!


 そして再びぶつかり合う両者! 叩きつけては流し、薙いでは逸らす。その攻防の早さはミケとゴブリンとの戦いに比べると負けてはいるが、十分に早い。


 《速い~!? 先ほど第一試合ほどではありませんが、それでも、私の目には、愛しのギルバード様が霞んで見えます。これが、恋の盲目というやつかぁ~!!》


 実況のお姉さんのボリュームも上がっていくに従い、会場内の観客たちのボルテージも上がっていく。ってか、お姉さん。ミケたちの戦いと、ギルバードの戦いと比較出来るなんて、凄いですよ!?


 その観客たちの熱気に影響を受けたかの様に、二人の攻防はさらに激しさを増していく!斧と短剣が生み出す火花が、金属音が、そして、激しい攻防によって生み出された竜巻の様な暴風が観客たちの歓声に応えているかのようだった。「す、凄いにゃん……」と、隣で試合を見守っていたミケも、あまりの迫力に押されていた。



『何故だ?! 何故そこまで速い!?』



 そんな中、魔力で高めた俺の耳が、二人の生み出す、まるで竜巻の様な暴風の中から声を拾い上げる。声からして、喋っているのはオークだ。こんな激しい戦いを繰り広げながらも、会話をする余裕があるのかという俺の驚きをよそに、ギルバードはオークの質問に答えた。



「実は私、センチュリーなんです。そして、私の師匠の名はフォルテナ。聞いた事はありませんか」

『無いなっ!』



 センチュリーという言葉に、少しだけ動きを鈍くしたオーク。だが、続くギルバードの言葉を強く否定しながら、右手の金の斧で、ギルバードの腹を割こうと横に薙ぐ。

 それを、左手に持っていた短剣の刃で受け流したギルバードは、クルりと回転しながら、オークから離れる。そして、右手に持っていた短剣の刃先をオークに突き付けた。



「そうですか、でしたら、魔物(あなたたち)にはこちらの名前の方がご存知かも知れませんね。私の師匠であるフォルテナ様の二つ名は、──閃光の金姫(レイ・プリンセス)──!」

『なにっ!?』



 ギルバードが距離を取った事で、二人の攻防によって吹いていた暴風も消える。闘技場のほぼ中央に姿を現した二人だが、オークの顔は驚きに染まっていた。



『お前はあの“閃光”の弟子だというのか!?』

「そのご様子だと、師匠をご存知なのですか」

『直接は知らん。だが、俺と同じ旗の奴が言っていた。“閃光”に気を付けろ、と』

「それはそれは。で、そのお仲間とやらはどうしました?」

『……死んだよ、その閃光の手に掛かってなぁ!!』



 ギリッと歯を噛み締めたオークが、放たれた矢の様な勢いでギルバードに突っ込んでいく。そして、『うおおぉ!!』と雄叫びを上げながら、左右に持つ金銀の斧を連続して叩き込んでいく!


 今までとは比べ物にならない波状攻撃。オークの攻撃によって発生した暴風も、先ほどの非ではないほどに大きい。金銀の斧が繰り出す苛烈極まりない攻撃の一撃一撃が、即死級の威力をもって、ギルバードに襲い掛かる! だが、そのどれ一つとっても、ギルバードに当たる事は無かった。オークが技の速度を上げた分、ギルバードも同じだけ、回避の速度を上げたのだ!



『どうしてだ!? 先ほどまで赤子の様に震えていたオマエが、何故急にこれほどの力をっ!?』



 ギルバードにことごとく攻撃を防がれ、狼狽えるオーク。当たり前だ。オークはよほど、自分の実力に自信があったのだろう。自分は旗のオーク、その中でも、金銀のオークと呼ばれた本物のネームドであるのだから。その自分が繰り出す攻撃を、さきほどまで生死の境を彷徨っていたギルバードに、全て見切られているのだ。そう、聞いてしまうのも仕方が無いと思う。


 オークのがむしゃらともいえる攻撃を、ともすれば人を馬鹿にした様な薄笑み顔で難なく受け流すギルバードは、オークの質問を受けると、その顔から笑みを消して無表情となる。



「さきほどは情けない姿をお見せして、恥ずかしい限りです。実は、私の大好きだった姉は殺されたのです。あなたの様な旗のオークに。私のせいで……」

『だからどうしたというのだ!? あの世界では、弱者は強者に殺されるのが道理! お前の姉が弱かった、ただそれだけの事! そんなことでは、あの世界では生きられん! 違うか!』

「確かにそうかもしれません。あの世界では、弱き者のすぐ傍には常に死があった。そして、私も姉も弱者でした。姉はセンチュリーの試験に受かるほどの実力があった。ですが、私がミスをしたばかりに、私に代わって殺されてしまった。だから、私は動けなくなった。アナタを見た時に、その事が蘇ってきてしまった……。心の傷、というヤツなのでしょうね。その時の事を思い出すと、震えてしまうのです」

『詮無き事よ! 弱者の心得がなっとらんのだ! 弱者は常に搾取される。それが己の命であっても。それが嫌なら、強くなる事だ! 俺の様に!』




『うおおぉ!』と気合の篭ったオークの一撃! それをギルバードは逃げる事無く正面から受けると、「うおお!」とオークにも劣らない気合を込めて、押し返す!

 そして、自分よりも小さく、非力だと思っていたギルバードに押し返され、悔しげに顔を歪めたオークに片方の短剣を向けると、



「ですが、今は違います! 私は強くなった! センチュリーとなった! そして、旗のオークであるあなたと、対等に戦っている! これも、あなたが弱き者と評した姉さんのお陰です!」

『戯言をっ!?』

「あなたに信じてもらおうだなんて、これっぽっちも思っていません! ですが、私は求められたのです。大好きだった姉に死ぬなと! だから私は決めた!戦うと! 一生懸命に生きて、それから姉さんに会おうと。そう、決めたのです!!」



 ギルバードを覆う魔力が上がっていく! それに呼応する様に、翡翠の短剣がその色を濃くしていった。



「だから、ここで死ぬわけにはいきません! もう、姉さんを裏切るわけにはいかないから!」



 吼えて、初めてギルバードが攻撃を仕掛ける!短剣が、煌めく一対の翠光となって、オークの両肩へと差し迫る!



『小癪な!』



 ギルバードが向かってくるとは思わなかったのだろう。多少慌てた様子を見せたオークだが、そこはさすがに旗の魔物。すぐさま迎撃態勢を整えると、向かってきたギルバードに、右手を打ち下ろす!

 そのオークが振るった金の斧を弾く、二つの翠色の光。オークの振り下ろした金の斧に、両方の短剣の刃先を変えてそれを迎え撃ち、さらには弾き返す! そして再びオークの肩へと刃先を進めていき、ついにはその刃先が、オークのコンバットスーツへと差し込まれた。


「決まったっ!」

『ぐぅ、この!!』



 だが、それは浅かった様で、オークは目の前にあるギルバードの頭に、銀の斧を叩き込む! 対してギルバードは肩に刺さっていた短剣を引き抜くと、咄嗟に、銀の斧の刃先に合わせて滑らせながら、体勢を低くして、難を逃れる! 

 体勢を低くしたギルバードは、そのままオークの足に向けて足払いを仕掛けた。足を払われると思っていなかったオークは、その足払いをまともに受け、体勢を崩す。チャンスだ!


 だが、ギルバードはそこで攻撃を仕掛けず、バク転をしながら距離を取る。その首筋には、血が流れていた。オークの攻撃が掠めていたのだ。

 首筋を流れる血を指で救うギルバード。



「ほんと、恐ろしい。完全に躱したと思っていたのですが」

『オマエこそ、な。まさか、斬り込んでくるとは思いもよらなかったわ』



 ギルバードの短剣に刺された肩口を押さえながら、『グフフ』と口の脇に生えた牙を震わせながら嗤った。さっきから想っていたが、こいつは戦闘ジャンキーなんだな。

 そんなオークを見て、フッと顔を綻ばせたギルバードに、『何だ?』と訝しむオーク。



「いえね。あそこに居るあなたのお気に入りである凡太は、あなたと違って戦うのが嫌いなのですよ。それは私もですがね。なので、そろそろ終わりにしましょうか。……先ほどのアナタの締め付けで、かなり辛いのでね」

『そう言うな、エルフの戦士よ。オレとしてはやっと楽しくなってきた所なのだぞ?』

「そんな事を言われても私も疲れました。それに、私は楽しくはありませんし」



 そう言って、短剣を構えるギルバード。だが、今まで見せていた普通の構えでは無く左手の短剣、その刃先を上に向けて、右手の短剣に、左手の短剣の刃先をオークに向ける様にして水平に重ねた。まるで、短剣で十字の形を作る様な構えだ。


「なので、これで、終わりです。もちろん、私の勝ちで、ですがね」

『舐めるなぁ!!』



 激高したオークが、ギルバードへと襲い掛かる。オークも自分の魔力を高めたのだろう、両手に持つ金銀の斧が淡く輝き出す!




『ならば、貴様のいう通り、終わりにしてやろう!!死ねぇ! デスブロークン!!』


 空気を震わすほどの魔力の篭った、上からの袈裟斬りと、左下からの逆袈裟を同時に放つオーク。 これでは、躱すことも出来ない。受け流そうにもギルバードの力で何とか出来るとは思えない!



「ギルバード、避けろ!!」

「ギルさぁん!!」



 俺とミケが叫ぶ! が、ギルバードは避ける動作はおろか、その独特な構えすら解く素振りを見せない。



『もらったぁ!!』



 左右非対称で襲い来る金銀の斧! それが、ギルバードの体へと吸い込まれようとした時、ギルバードはやっとその構えを解く。今までの様に、オークの攻撃を受け流そうとしているのかっ!?

 ──いや、違う! 見ると、右手をスッと引き絞った。まるで、弓の弦を引く様に! 

 ギルバードの魔力が爆発的に上がった! その体を覆っていた魔力が緑へと変わり、渦巻いていく!!



『ムッ!? なんだ!?』 ギルバードの変化に気付いたオーク。が、お構いなしと技を叩き込む速度は落ちない! 斧の刃先が、ギルバードの首と胴体に触れようとした瞬間、二人の間に緑色の光が溢れた!! ──そして──



「デスぺディーダ・エテルナ(永遠の別れ)!!」

『ぐああぁぁ!!!』



 緑の光が爆発した瞬間、上がるオークの悲鳴。が、光が強過ぎて、何も見えない。「何にゃ! 何なんにゃ!?」と隣のミケが慌てた声を出す。《きゃあぁ!?》と実況のお姉さんの悲鳴も聞こえた。



 徐々に弱くなっていく緑の光。そうしてようやく辺りが見える様になった俺の目に、信じられないものが飛び込んでくる。

 体からブスブスと煙を上げながらも、何とか立っているギルバードと、倒れているオークだった。持っていた金銀の斧は、遥か後方へと吹き飛ばされている。しかも、着ていたコンバットスーツは破け爛れ、露わになったオークの腹には、何かで抉られた様な傷があり、そこから青紫色の血が流れていた。



『な、何者だ、き、さま……。あれほどの、技を、持って、いるとは……。あんな技、……危険すぎる……ぞ?』

「い、いや、アレは、遠距離用なのですが、あなたが、強過ぎるので、躱されると思ったので、ま、間近でやって見ました。……が、二度とする、つもりはありません、ね……」

『な、なんだ、それは。痛つつ……』



『グフフ』と嗤うオークと、「いやぁ……」と笑うギルバードの声が、シーンと静まり返った城内に、静かに響いていく。いやいや、オークさん? あなた、お腹の一部が抉れてんすよ? ギルバードさん? あなた、体から煙が上がってんすよ?


 だが、そんな状態の当人たちは話をするのが楽しいのか、戦いの後の反省会みたいな会話を続けている。



『何故、これほどの腕を持ちながら、弓を使っておったのだ!?』

「それは、お恥ずかしい事なのですが、要は姉離れが出来なかった、という事です」

『どういう事だ……?』

「私の姉は弓が得意でした。私はそんな姉に憧れていたのです。だから私も弓を扱う様になったのですが……。結局、私は姉にはなれなかった……。私は私にしかなれなかった、という事です」



『そうか……』と、目を瞑ったオーク。暫くして目を開けると首を回し、俺達の方──いや、俺を見る。



『どうしてか、あの小僧の言っている事は分かるのだ?周りの言っている事は分からないのに?』

「それは、この空間が不思議な魔力に覆われているからでしょう」



 何とか立っていたギルバードも、ペタリと膝から折れる形で、地面へとへたり込むと、会場内をグルリと見渡す。その視線に誘われた訳では無いだろうが、オークも俺へと向けていた視線を外して、会場のドーム状になっている天井を見上げていた。



『そうなのか……。なんとも不思議な場所なのだな。ならば、あの小僧に伝えてくれ。次こそは()ろう、と。魔力があるのなら、この傷もその内に癒えるだろうしな』

「それは、嫌がるかも知れませんよ? 何て言ったって、凡太は戦う事を嫌がってましたからね」

『フッ……。そんな事はあるまい。現に、オマエが俺の手で殺されそうになった時、凄まじい殺気を吹き飛ばしてきたのは、あの坊主だからな』



 また、こちらに視線を向けるオーク。何だろ、声の大きさを落としたのか、さっきの笑い声から、何を言っているのか良く分からない。良くは分からないが、「お前強いな」「お前もな」的な、少年マンガに出てくる様な、そんな良い言葉を交わしている感じでは無いのは、解る。



『きっと、オマエを助けたかったのだろう、エルフの戦士よ』

「……聞かなかった事にします。でないと、これから先、恥ずかしくて、凡太の事を揶揄えなくなりますからね」

『そうか……』



 会話に満足したのか、オークは右手を震わしながらも、天井に向けて高々と上げる。そして──



『俺の、負けだ……。降参だ……』



 と、俺達や観客に聞こえる声でそう言うと、パタンとその手を下ろす。


 相変わらずシーンと静まり返る場内。だが、その中で唯一、この人だけがそれに答えた。



 《第二試合の勝者は、ギルバード選手~~~~~っ!!!!》




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ