第十二話 見知らぬ美少女
「き、君は一体……?」
すっかりと気を抜いていた自分の目の前に、見知らぬ美少女が居た。そして誰何する。すると、少しだけ間を置いてから、
「……パンツ……」
「……え、パンツ、ちゃん……?」
変わった名前だ。最近色んな名前が有るし、その位では動じない俺でも、流石にパンツなんて……。どんな漢字かな。いや、平仮名だろうな。
そんなバカな事を考えていると、ほぼ無表情の中に、ほんのりとムッとした顔を見せ、
「……違う。……パンツ、穿いて……」
「パンツ、穿いて……って、うわあっ!?」
そこで、ようやく自分の姿に気付く。だが、パニックに陥っていた俺は、パンツでは無く、床に落ちた、腰に巻いていたタオルを一生懸命穿こうとしていた。
「……パンツ……、手に持ってる……。早く……」
そこでパンツちゃん、じゃなかった、銀髪美少女が、俺の手を指差すナイスアシストを見せる。……この子にはぜひ、日本代表のトップ下を任したい!
「お、そうだった」
俺は、手に持っていた着替えから、素早くパンツのみを取り出す好プレーを発動し、機敏な動きで、パンツを身に纏った。日本代表のキャッチャーマスクは俺に任せて欲しい!
良く見ると、前後逆に穿いていたトランクスだが、そんな事を気にせずに、俺は着替えに持ってきたスウェットの部屋着を着ていく。ちなみに制服のズボンとYシャツは、金曜日には洗濯する事になっているので、洗濯機の中だ。
人間、裸よりも服に身を包んだ方が冷静になれる(当たり前か)もので、部屋着を着た俺は、やっと冷静にその光景を分析し始める。
(——えっと、ここは俺の家で合っているよな? んで、ここは俺の部屋……、ん、合ってる)
もしかすると、俺が風呂に入っている間に、兄ちゃんか均が彼女を連れて帰って来たのかもしれない。それでその彼女である、目の前の銀髪美少女ちゃんは部屋を間違え、俺の部屋に入ってきたと。たしかに、部屋のドアには、誰々の部屋なんて表示は無いし、初めて来たのなら、間違ってしまうのも無理は無いだろう。
(って、もしそうなら気まずいよな……。俺、家から出ていようかな……)
兄ちゃんか均、どちらの彼女かはこの際、良いとして、……いや、兄ちゃんの彼女にしておこう、ちょっと幼過ぎる感じはするけど。弟の均に抜かれるのは、兄の威厳的にも精神的に良くないし……、彼女を家に連れて来て、やる事と言ったら決まっている。……ウノかな……?
どちらにせよ、気まずい思いをするのは避けたい。風呂に入ったこの体で、また外に行くのは嫌だけど仕方ない。明日の予定の件もあるし、球也ん家でも行くかな。
取り合えず、目の前の銀髪美少女には部屋を出て行ってもらおう。
「……あ~、えっと、民男兄ちゃんの彼女さんかな? だったら——」
「(フルフル)」
首を横に振る銀髪美少女。その仕草は小動物の様で可愛らしい。
(……チッ、均の彼女かよ……。中坊の分際で彼女なんて……。あとで母さんにチクっておこう……)
兄として、最低な事を考えていた俺は、もう一度銀髪美少女に向かって。
「じゃ、じゃあ、均の彼女さんかな? だったら、均の部屋は——」
「(フルフルフル)」
だが、これにも首を横に振る銀髪美少女。やっぱり可愛い。
(……するってぇと何かぃ? もしかすると……。——っ!?)
ここまで残してきたライフラインを全て使用した結果、残る選択肢は一つしか無い。すでに一千万の小切手は俺の手中にあると言える——!
知らず、息を呑む。その言葉を口にして、目の前の銀髪美少女が首を縦に振ったその瞬間、俺の人生はまさに、大転換期を迎えるのだから、
「——君は」
鼓動が高鳴る。今なら、血管に針を刺すのがどんなに苦手な新米看護師も、一発で綺麗にさせるんじゃないかってくらい、心臓がバクついている。
(頼む——)
「もしかして、君は……。君は俺の——」
汗が頬を流れて、フローリングの床に染みを作った。俺は意を決した。
「——君は、俺の父さんの愛人なのかっ!?」
「(フルフルフルフルフル)!!」