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第十一話 俺の奇行

 


「……んっ……」



 目を開く。ぼーっとする意識の中で、無意識に頭を振る。そして意識して体に力を入れると、立ち上がる。どうやら俺は眠っていた様だ……。



「……ここは……、公園、か?」



 はっきりとしてきた目で周囲を確認すると、そこは家のすぐ近くにある、小さな公園だった。どうやら俺は、公園にある木製のベンチで眠っていた様である。



「なんで、俺はこんな所で……? テスト勉強で疲れていたのか?」



 体を見ると制服姿のままだった。ベンチの横には、学校に持って行っている学校指定のカバンもある。どうやら、学校から家に帰る途中で、このベンチで眠ってしまったらしい。



「そんなに追い込んで勉強していないんだけどなぁ……。——はくしょんっ!」



 寒さでくしゃみが出た。12月の夕方近いこの時間に、公園のベンチで眠っていればそうなるのも仕方ないことである。


(うぅぅ、寒いっ。取り合えず家に帰ろう……)


 このままここに居ても風邪を引くだけである。こんな事で風邪を引いてしまえば、せっかく明日から休みだというのに、休みの間ずっと布団の中で過ごす事になってしまう。それではとても勿体無い。

 そう思い、ベンチ横に置いてあるカバンを拾おうとした時、


 カランっ



「ん、何だ?」



 ブレザーの胸ポケットから、見慣れない物が地面に落ちた。

 それは、不思議と七色に光る、カードの様な物。



「こんな物、持っていたか?」



 恐るおそる、指先で二、三度カードを突っつく。コンコンと硬い——恐らくは金属製であろう——感触がした。が、電気が走るとか、何かが吸われるといった事は無さそうだ。


(俺のか、これ……?)


 全く記憶に無い。こんな特徴的なカード、もし自分の物だとしたら、絶対に忘れる訳が無い程のインパクトを持っているはずなのに。


(う~ん、誰かのイタズラか?)


 公園で寝ていた俺のポケットに、誰かがこっそりと入れたのかも知れない。そう考えると、とても気持ち悪い物に見えてしまった。


 俺はキョロキョロと公園内を見る。夕焼けと夕闇が半々に支配し合う空の下、今朝方に吹いた木枯らしのせいで、公園隅の壁に溜まった落ち葉が、緩く吹いている風に乗って戯れている以外、この公園にも、その周辺の道にも人影は見当たらない。


(これ、このままでいいか……)


 そう判断し、素早くカバンを手に取ると、そそくさと公園を後にした。



 ☆



「ただいま~」



 玄関の鍵を開け、家の中に入る。家の中には誰も居なかった。父さんは別として、夕方までパート務めしている母さんも、大学生の民男兄ちゃんも、中学生の均も、誰も帰ってきては居ない様だ。


(取り敢えず、風呂でも入れるか……)


 冷え切った体には、お風呂が一番である。テスト勉強の疲れもあるし、風呂に入って体を温めよう。

 そう考え、お風呂場に寄って、自動お湯はりのボタンを押して、浴槽の蓋を閉める。そして、着替えとカバンを置くために、二階にある自分の部屋に向かった。


(さーて、明日からの休み、どうすっかな~。久々に球也ん家で、オールスター格闘マスターズでもやっかな~)


 明日からの土日は、全部活とも休みである。高校からの友達である球也の家には、すでに何回も行ったことがある。球也は一人っ子なので、球也の部屋は俺の倍はあり、その部屋の大きさに比例するかの様な大画面のテレビを使って、ゲームでもやろうと勝手に約束して、部屋のドアを開けた。


(……? なんだ——?)


 見慣れた自分の部屋、のはずだが、どうしてか凄くホッとしている自分が居た。それは何故だかは解らない。あんな寒空の下で、小さなベンチで寝ていたせいか、自分の部屋にあるベッドを見て、そう思っただけかもしれない。


 カバンを、小さい頃から使っている学習机の上にボンっと置くと、そのままベッドに体を預ける。ボスっと、自分の体重分沈んだマットレスから埃が噴き出し、部屋の中を舞う。制服が皺になると解っていながら、そのままゴロゴロとベッドの上で横たわると、階下からお風呂が入った事を告げる音声が耳に入る。



「取り合えず、風呂に入るか……」



 踏ん切りをつけて立ち上がると、クローゼットから着替えを取り出し、代わりにブレザーをハンガーに引っ掛ける。

 そうして部屋を出て、トントンと階段を降り、台所に寄って麦茶を一杯引っ掛けてから、脱衣所に入り、上から……って、野郎の着替えはどうでも良いよな。



「ふい~~……」



 体を洗い湯船に浸かると、体中から疲れが抜けていく感覚に、つい口から溜息が漏れた。やっぱり、日本人には、風呂が一番だよなぁ。


 ゆっくり風呂に浸かっていると、明日からの予定を、まだ球也に言っていない事を思い出した。


(ん~、そろそろ出るかなぁ)


 ザバァっと風呂から出て体を拭き、パンツから穿こうとして、止まる。


(今、誰も居ないよな。ならば——)


 パンツを穿くのを止め、体を拭いたタオルを腰に巻き、着替えを手に持って脱衣所を出る。玄関に鍵が掛かっている事、そして誰も帰って来ていない事を確認した。

 たまに出る俺の奇行、その1である。誰も居ない家の中で、普段出来ない事をしたくなるのだ。別に兄弟は男しか居ないし、唯一の女性は母親だけで、別段見られても何も困らない。それでもやはり、親しき中にも礼儀ありである。家に誰かが居る中で、裸でウロウロするのはやはり(はばか)れるのだ。

 だが、今は誰も居ない。まさに絶好の好機。ウシシと笑い、下の物をぶらりぶらりとさせながら、台所に寄り、風呂上りの麦茶を一杯引っ掛けると、そのまま階段をトントンと上がる。下の物も、太ももをトントンと……って、要らないよな。


 二階の廊下を歩き、自分の部屋のドアを開ける。このまま裸の状態で布団の中に入っても良いかもしれない。俺の奇行、その2である。



「さて、んじゃあ、球也に電話でもすっかな~」


 ガチャリと開けたドアの向こう、そこには——、



「……お帰り、なさい……」

「……へ?」



 銀髪の見知らぬ美少女が、俺のベッドに腰掛けている。


 パサリ……。


 そして、期待に応えるように、腰に巻いていたタオルが床に落ちた。


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