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第五十二話  獣人族とオーガの戦い

 

「思ったよりもずっと強いな」



 身を低くして、なるべく目立たない様にしながら、出来うる限りの速さで学校の皆が居る観客席の一画に向かう俺達。

 でも、動きっぱなしでは流石に見つかってしまう恐れがあるので、たまに止まっては闘技場で繰り広げられている、獣人族の戦士対オーガの戦いに目を向ける。そこで行われている命のやり取りに目を向ける。



「ヌウウオォオ!」



 オーガが気合を込めた、渾身とも言える横薙ぎを放つ。その前に立つのは、イタチの女性戦士から治癒魔法を受けて戦線復帰したカンガルーの戦士!



『うおおおお!!』



 こちらも気合いを込め、手に持っていた鉄の槍をオーガの放った石柱による横薙ぎにぶつける!質量的には圧倒的に劣っている鉄の槍。だが、出来の悪いマジックでも見ているかの様に、オーガの石柱と、カンガルーの戦士が放った鉄の槍は拮抗する!それは、目に見えない力、魔力が自分の得物を見た目よりも強靭な物に変えているからこそ、成せる光景なのだ。


 ぶつかり合った互いの武器は、数秒ほど拮抗したあと、勢い良く弾かれる。その勢いに引っ張られる様に、オーガもカンガルーの戦士も大きく体勢を崩してしまう。

 すると突然。キツネの女性戦士が、カンガルーの戦士の背後から現れた! そして、体勢を崩したオーガのその隙を突いて、持っていた棍で、血を流しているオーガの太もも目掛け、突き入れる!!



「ヌウオォ!?」



 驚きと軽い悲鳴を上げるオーガ。だが、そこは物語にも出て来るほどの魔物!



「ウオオオォ!」



 両手で持っていた石柱から左手を離すと、足元のキツネの女性戦士に向けて振り落とす!キツネの女性戦士は気付いているが、棍を叩き付けた体勢から復帰出来ていない。このままではまともに食らってしまう! 


 と、そこに一人の男性戦士が現れると、キツネの女性戦士の体を脇に抱え上げ、そのまま駆け抜けた! ウマの男性戦士だ。 ウマの戦士が駆け抜けた直後、ドンっ!と誰も居なくなった地面を叩き付けるオーガ。そこでお終いかと思ったが、手を開き、地面を抉る。そして、抉り取った土を、オーガに背を向けて退避しているウマとキツネの戦士に向けて、叩き付ける!



 背後から襲い来る土と石礫に巻き込まれ、『うおおあ!?』『きゃあ!?』と悲鳴を上げて吹き飛ばされる二人の戦士。そのまま土煙の中に姿が消えてしまった。



『このぉおお!!』



 二人の戦士が吹き飛ばされたのを見たカンガルーの戦士が、半ばしゃがみ込んだ格好のオーガの顔に向けて、鉄の槍と突き出す!ってか、ミケと同じ様に喋れるんだな。


 突き刺されば致命傷だと思われたその攻撃を、オーガは咄嗟に、自らの左腕を顔の前に持って来て防いだ。そして、鉄の槍が刺さったまま、腕を振り回す!



『おわぁあ!?』



 鉄の槍を握ったままだったカンガルーの戦士は、オーガが腕を振り回す度に情けない声を上げる。



『手を放せ!』



 俺は見ていられなくなり、思わずカンガルーの戦士に向けて叫んだ。



『──うおおっ!?』



 一瞬、俺と目を合わせたカンガルーの戦士は、コクンと頷くと、少しだけ躊躇を見せた後、鉄の槍から手を離すと、遠心力で飛ばされた体をクルクルと回転させ、スタっとキレイに地面に着地して見せた。いや、そんな事が出来るなら、初めからやれよ。



『すまん、助かった!』



 カンガルーの戦士がお礼を口にしたが、その目はオーガから離されていない。自分の得物である、鉄の槍が無いいま、どうやってヤツから鉄の槍を取るか考えているのだろうか。


 気にするなと心の中で返すと、俺達は再び移動を開始する。 同じ場所に居ると見つかってしまうかも知れないし、さっき大声を出してしまったからな。


 移動しながら、闘技場を見る。今オーガと直接戦っているのは、鉄の槍をオーガに取られ、丸腰になったカンガルーの戦士ただ一人。

 サイの戦士は鉄の槍でガードしたとはいえ、オーガの放った石柱を食らって吹き飛ばされ、今はイタチの戦士に治癒されている。頭から血を流し、身動き一つしていな所を見る限り、かなりの怪我を負ったのかも。


 ウマとキツネの戦士はオーガの放った石礫に背後から襲われた後、土煙に包まれてしまい。今もその姿が見えない。その事から、サイの戦士程ではないにしろ、それなりのダメージを負ってしまったのかも知れない。

 そんな闘技場の様子に、俺は移動しながらも目を向けていた。



「あのオーガ。戦い慣れていやがる。強い、な」



 移動しつつ、オーガの行動を思い出していた。特にあの地面を抉り取って作った石礫と、咄嗟に腕で鉄の槍を防いだ事。その二つは簡単に出来ることでは無いと思う。実戦を積み重ねていなければ到底出来るとは思えない。やはり、あのオーガはエルーテルで戦いを経験してきた、本物の化け物ってことだ。一人一人は強いのに、チームワークが出来ていないからうまく戦えていない獣人族の戦士たちを相手にしているとはいえ、その強さは際立っていた。



「確かに、あのオーガは強いです。あれで“旗”では無いのですから恐ろしい」

「解るの、舞ちゃん?」

「はい。魔力を見れば解ります。旗はその自身の体に有している魔力の量が、同じ種類の魔物のそれと比べて圧倒的に多いんです。ですが、あのオーガの魔力は平均より少し多い程度ですから」

「相手の魔力が見えるの? あ、そういえば、さっきミケが言ってたな。魔力を感知する魔法があるって」

「はい。大まかに魔力を感知する事の出来る魔法がエルーテルには有ります。ですが、それはただ単に魔力を感じるだけです。今、私が使っているこの能力はあの御方から授かったもの。ですから、普通の住人は相手の魔力量を見る事が出来ません。エルーテルでそれが出来るとしたら、神の使いさまと呼ばれる私達かと、魔法を極めたとされる魔王とその直属の配下だけでしょう。魔王の使うその魔法が、私達の能力と同じかは分かりませんが」



 俺の後ろに居た舞ちゃんは俺にそう説明すると、最後に何故か唇を薄く噛み締めた。その舞ちゃんの後ろに居たミケは、自分の名前が出た所で、耳をピクリと動かしている。



 すると突如、「ウワァア!」と会場が沸いた。闘技場上に目を移すとそこには、持っていた石柱を体の前で思いっきり振るうオーガの姿が。そして、その前で、腕で顔を守る様にして立っているカンガルーの戦士。だが、オーガの狙いはそのカンガルーの戦士では無かった。


 ブンブゥンと、小枝でも振るう様に石柱を振るオーガ。すると、土礫で発生した土煙が晴れていく。そこには、蹲り、地面に倒れていたウマとキツネの戦士の姿。土礫で負ったのか、薄い生地の長袖に、重なり合わせた布を所々に継ぎ接ぎしただけの簡素な服のあちらこちらが引き裂かれ、そこから血が滲んでいた。キツネの女性戦士は半ズボンを穿いていたので、剥き出しになっていた太ももからも血を流している。

 二人とも起き上がろうとしていたが、体が思い通りに動かないのか、すぐには起き上がれなさそうだ。

 その様子に、観客たちはさらに沸く。「殺せぇ!」「トドメを刺してぇ!」と、物騒な声が上がる。中には、「オーガさん、頑張ってぇ!」と、子供の声さえ聞こえて来た。

 その声を理解した訳では無いだろうが、オーガは石柱を振るうのを止めると、倒れている二人に向けて歩み出す。



『うおおお!?』



 仲間のピンチにカンガルーの戦士が、倒れた二人の戦士の元へと歩くオーガに向けて、突進していく!おい、丸腰でそれは無茶だ!

 対してオーガはゆっくりと振り向いた。にやけた面を浮かべて。恐らく、地面に倒れていた二人の元に向かったのは罠だ。そうする事で、唯一戦えるカンガルーの戦士を焦らそうとしたのだ。そうして自分の思った通りに事が進んで、悦んでいやがるのだ。


(何か無いか!? 何か彼の武器になりそうな物は!? ──あれは!?)


 あのままでは、先ほどの上級生たちの様にあの石柱に潰されてしまう! 何か武器になりそうな物は無いかと周囲に目を向けると、闘技場の端──俺達が向かっている先に、会場の照明を受けて鈍色に光る何かを見つけた。あまり派手に動くと見つかってしまうかもしれないけど、仕方ない。人命(?)優先だ!



「あ、凡太!?」



 列の先頭を歩いていたギルバードを追い抜くと、鈍色に光る物の元へと急ぐ。そして、落ちていた──恐らくサイの戦士の持っていた鉄の槍を掴み上げると、



『受け取れぇ!』



 カンガルーの戦士に向けて放り投げる。その際、近くに居た観客たちに指を指される。これはもう、バレたな……。


 受け取り易い様に優しく投げた鉄の槍は、クルクルと回りながら狙い通りにカンガルーの戦士へと飛んで行き、無事に彼の手に渡る。



『重ね重ね助かる、人族の少年よ! オオオッ!』



 俺にお礼を伝えると、突進する速度を増したカンガルーの戦士はそのままオーガへと向かって行く! 俺の思わぬ助けに少し狼狽えた様子を見せたオーガだったが、気を取り直した様に、石柱を構えて迎え撃つ。それを見ても、変わらず突っ込んで行くカンガルーの戦士。その姿はまるで、決死の攻撃の様だ。

 だが、幾ら武器を手にしたとしても、そして、オーガが太ももにケガを負っていたとしても、あのカンガルーの戦士が勝つ所を想像出来ない。彼自身、オーガの石柱を受けられる程の力量があるので、オーガの隙を突いてあの鉄の槍をまともに入れられれば何とか勝てるとは思うのだが、他の戦士が傷付き倒れている以上、その隙を生み出せる何かが期待出来ない。何か切っ掛けがあれば!


(こうなったら、俺が助太刀するか!?)


 ミケにああ言った手前、あまり気乗りしないのだが、このままではあのカンガルーの戦士は殺されてしまう。一度関わった以上、ミケに責められるの覚悟で手を貸すかと、闘技場へと足を向けようとしたその時──!



『火よ、集いて敵を撃て!』



 どこからか、可愛らしい声が聞こえたかと思うと、



『ファイアーボール!』



 力強い掛け声と共に、ボウッと何かが燃える音が聞こえたかと思うと、赤く燃えた、俺の拳大ほどの大きさの火の玉が、オーガの顔目掛けて飛んで行く!



「ゴワァァア!?」



 石柱を振り上げ、余裕の表情を浮かべて迫ってくるカンガルーの戦士を待ち構えていたオーガにとって、その火の玉は想像していなかったのだろう。避ける間もなく、火の玉をまともに顔に食らう! ボンと音を立てて小さく爆ぜた火の玉は、オーガの右目に直撃しその周辺を焦がす。

 驚き、悲鳴を上げたオーガは、振り上げていた石柱から右手を離すと、顔を撫でる。それは、絶好の、これ以上無いほどの隙。そして、その隙を見逃す愚かな戦士は、闘技場の上には存在しない!



『うおおおおっ!!』



 裂帛の気合いを込めたカンガルーの戦士が跳ぶ! そして、持っていた鉄の槍を深く引き絞ると、オーガの首目掛けて突き出した!


 ザシュウウ!


「グオオオォオ!!」



 深々とオーガの喉に刺さる鉄の槍。そこから大量に噴き出す、紫の液体。オーガは慌てふためく様に、喉に刺さった鉄の槍を引き抜こうと藻掻くが、かなり深く入っているのか、なかなか抜けない。その内、体の力が抜けていくのか立っていることも出来なくなりしゃがみ込むと、そのまま横向きに倒れ、そして、ついに動かなくなった。



 こうして、突然始まった、獣人族とオーガの戦いは、満身創痍ではあるものの、獣人族の戦士チームの勝利で幕を下ろしたのだった。


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