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第四十七話  約束が全然違うじゃねーか!!

 

 《さぁ、今年もやって参りました!! クリスマス恒例のイベント、“ザ・デスマッチ”!! 今宵、皆さまに最高のエンターテイメントをお届けする舞台は、今年も○○市にある△△コロッセオです!⦆



 壁に設置されたモニター画面に、まるでレースクイーンの様な服を着た、スタイル抜群のどこかのアイドルだかタレントだかの女性が、実況席でマイクに向かって騒いでいる。その様子を、俺は半ば呆然と視ていた。


 俺達が今居るのは、そのコロッセオ内にある控室だ。夕方近くの約束の時間に、家の前にいつの間にか横付けされていた黒塗りの高級外車に、あれよあれよという間に乗せられた俺達は、このコロッセオと呼ばれた施設に到着するや案内された場所である。そんな名前の施設、この国に有ったか?



「ったく、馬鹿どもが。お祭り騒ぎにしちまいやがって」

「ん? 何か言いましたか、凡太?」

「いや、別に」



 どこぞのダンディな空挺乗りの様な事をポツリと呟くと、それを耳聡く聞いていたギルバードが聞いてきたので、俺は何でもないと首を横に振る。だが、心の中で、思いっきり毒づいていた。


(ったく、約束が全然違うじゃねーか!!)


 そうして、乱暴にジーンズのポケットに手を突っ込んでは、そこにあった物──家の郵便受けに入っていた、一枚の葉書を取り出すと、そこに書いてあった内容に、改めて目を通していった。



 ☆



「ん、なんだ、コレ?」



 その日、多比良姫様から渡された手掛かりの書かれた紙を片手に、家の玄関から出た俺は、ふと玄関横にある郵便受けに目をやった。

 そこには、葉書が一通、中途半端に郵便受けに入っていた。今にして思えば、見つかりやすくする為に、わざとそうしてあったのだろうそのハガキを手に取る。郵便番号や宛先、差出人が一切書かれていないその葉書、「何だ?」と不審に思いながらもひっくり返すと、裏面には何やら文字が書かれていた。だが、違う国の文字なのか、全く読めない。



「なんだ?誰かのイタズラか?」



 手に取った葉書をパタパタと振りながら、イタズラを仕掛けた犯人がいるのではと、周囲に目を向けていると、「どうしましたか?」と、グレーのスウェット姿の女の子が声を掛けて来る。俺に続いて玄関から出て来たのは舞ちゃんだ。その手には俺と同じく、昨日渡された手掛かりの書かれた紙を持っている。



「いや、こんなのが家の郵便受けに入ってたんだけど、字が読めなくてさ」

「字、ですか? 見せてもらっても?」



 俺の横に並んだ舞ちゃんがそう言って、手を差し出してきたので「ん?良いよ」と、持っていた葉書を手渡す。

「ありがとうございます」と、お礼を言って葉書を受け取ると、例の何語だか分からない文字を見つめる舞ちゃん。すると、少ししてスッとその葉書を俺へと返してきた。



「な、読めなかっただろ?」と、受け取った葉書を再びパタパタ振り始めると、



「……いえ、読めました」

「え、嘘? あ、そうか。この世界の文字や言葉を理解しているんだっけか。さすが舞ちゃん──」

「いえ、それはこの世界の言葉では有りません」

「……え?」



 俺の聞き返しに、舞ちゃんは俺を見上げると、



「……その文字はエルーテル共通語、です」

「エルーテル、共通語?」

「はい、エルーテルに住む住人が使う共通語です。エルーテルには色々な国が有り、中には独自の文字を発展させてきた国も有りますが、全ての住人がエルーテル共通語を使う事が出来ます」

「……そのエルーテル共通語の文字だっていうのかい? この文字が?」

「はい。凡太さんも目に魔力を通せば、恐らく読めるかと思います」

「マジか!? どれどれ……」



 と、久しぶりに体にある魔力を起こすと、少し不機嫌そうに起き上がった魔力が沸々と湧き上がって来た。良かった、錆び付いてはいない様だ。あの事件以来、魔力を使わない生活をして来たから心配だった。

 湧き上がった魔力を目に集め、手に持った葉書に目を落とすと、



「……ほんとだ、読める……。えっと、なになに……、──え?」



 その内容がとても信じられなくて、隣に立つ舞ちゃんを見た。俺が葉書を読み終えるのを待っていた舞ちゃんは、俺の顔を見つめると、コクリとその可愛らしい顔を縦に振る。どうやら、俺が読めた内容は合っていた様だ。だが、本当に合っているのか信じたくなくて、そこに書かれていた言葉を口にした。



「……私が今回の黒幕です。内々に話が有るので、クリスマスの日の夕方、少し宜しいでしょうか?」



 ☆



「一体、コレのどこが内々なんだ!?」



 とうとう文句が口から出てしまったが、俺としては良く我慢した方だと思う。



 あの日、葉書を呼んだ俺と舞ちゃんは、早速多比良姫様に連絡を着ける為、以前貰った犬笛の様な笛を吹く。すると、暫くして天狗の天さんが現れた。それに驚く暇も無く、すぐさま多比良姫様の元を訪れた俺達は、その葉書を多比良姫様に渡した。



『なんとも不思議な力を感じるのぅ……。という事は、恐らく彼奴が送ってきた物じゃな』



 そう見解を示した多比良姫様は、俺達に犯人捜索を一旦止め、指定の日まで下手に動かない様に、そして、後から連れて来られたミケとギルバードを含む俺達の身の安全を守る為、当日まで自分の社に居る様に指示を出した。そうして、今日を迎えた訳だが……。



 俺が目を向けたモニター画面には、先程マイクに向かって騒いでいた実況担当らしいセクシーなお姉さんが、熱狂している人々で溢れかえった観客席に降り立って、その人々にマイクを向けてインタビューしている。その画面を視る限り、楕円形の、まるでサッカ―スタジアムの様な造りのこの施設に何万人、いや十数万人という人が居るのでは無いだろうか。その人達が上げる声が、地鳴りとなって俺達の居る控室まで届いていた。



「この人数が、これだけ騒いだら、内々どころかまともに話すら出来やしないだろ!?」



 モニター画面に映る親子連れ、そのお父さんがマイクに向けて、このイベントの為に一年間頑張って来た、チケットが当たって良かったと涙ながらに話し、その横で、小学生くらいの男の子が、興奮した面持ちで、お父さんに感謝を伝えている。そんなに興奮なさっていますが、一体これから何が始まるのでしょうか?



「そもそもなんで俺達はこんな所に居るんだ!? はっ!? もしかして、この控室内で内々に話をした後、俺達はそのまま家に帰れるんだな!? このモニター画面に映る光景と、この地鳴りは俺達に全く関係ないんだ!?」

「……凡太うるさいにゃ。現実を受け止めるにゃ。こりゃ、ミケ達は嵌められたんにゃ」



 パイプ椅子に座り込み、頭を抱えた俺を見て、ミケが呆れ口調で言う。



「あの動く、黒い箱に容れられた時点で気付くべきだったにゃ」

「……お前だって、乗ってきたじゃねーか」

「ミケは気付いていたにゃ。でも凡太が乗って行ったから、仕方なく着いて行ったにゃ。だからミケは悪くないにゃ」

「本当かなぁ?」

「……そんな事より、これからどうしますか、凡太。ドアの鍵は外側からしっかりと締められていますから、恐らく相手は私達を帰す気は無さそうですよ」



 俺とミケの幼稚じみたやり取りを見かねたギルバード。壁のモニターから目を離す事無く、俺に質問してくる。



「……どうするも何も、ここから出られない以上、相手の出方を待つしかないだろ。黒幕を名乗る奴から、連絡を寄こしたんだ。ここで会わないという選択肢は無いだろ。もし仮にここを力づくで出て行ったとしたら、もうその黒幕とやらに会えないと思う。ここまでの事をした奴だ。そのまま潜ってしまうだろうさ」



「だから待とうぜ」と、ギルバードに言うと立ち上がり、控え室の中央に置かれていた市販品のお菓子に手を伸ばす。控室にはテーブルの上にはペットボトルに入った飲み物も置かれていて、部屋にはトイレもある。取り合えず、不自由する事は無さそうだ。



「……これから一体、何が行われるのでしょうか?」



 机に置かれた飲み物の内、お茶のペットボトルを手に取って口にした舞ちゃんが、モニターを視ながら、誰ともなしに質問する。

 この施設に連れて来られ、今居る控室に案内された後は、一切誰もこの部屋には来ない。そして、この部屋にはお菓子や飲み物以外、何も置かれていない。その為、俺達が何かの情報を得る唯一の手段は、先程から点いているモニターの映像だけだ。

 そのモニター映像には、今度は若い男女──恐らくカップルだろう──が映し出され、先程のお姉さんがインタビューしていた。その様子はさながら、これから何か大きなイベント──例えばスポーツか何かの試合──が始める前の雰囲気にそっくりだった。



「……分からない。けどさっき、このお姉さん、クリスマス恒例のイベント、“ザ・デスマッチ”とか言ってなかったっけ?」

「確かにそんな事を言っていましたが、デスマッチ、とは一体何なのですか、凡太?」

「分からん。そもそも俺の知っているクリスマスに、そんな物騒なイベントなんて無かったからな。でも、デスマッチて言っているくらいだから──」

「殺し合い、にゃんね」



 ギルバードの疑問に俺が答え、最後にミケが続いた。

 ミケのいう通り、デスマッチとは直訳すれば殺し合いだ。クリスマスツリーに飾り付けを行い、手作りだか市販品だかのケーキとフライドチキン辺りが食卓を飾り、最後に忙しいサンタの代わりに親が、子供達が寝静まった後に子供達の枕元にそっとプレゼントを置いていく、そんな平穏なクリスマスに全く似つかわしくない言葉だ。



「この世界にも、そんな物騒なお祭りがあるにゃんね。ミケはそういうの好きにゃん♪」

「んなもんある訳ねーだろ。 特にこの国の法律ってルールの中には、他国とは戦争しないっていう世界に誇れる項目があるし、そもそも殺し合いなんて認めてねーよ!」



 どこか嬉しそうなミケに、俺はウンザリした。この国に限らず、他の国だって殺し合いを認めている国は無い。

 だと言うのに、世界に誇れる程に平和を享受しているこの国で、デスマッチなんてイベントが有る訳が──



「いや、あるわ、デスマッチ」

「え、あるにゃん!?」

「あぁ。と、言っても本当の意味で殺し合いじゃないけどな。プロレスとかで良く使うわ、デスマッチ」

「ぷろれす、ってなんですか?」

「う~ん、ま、平たく言えば格闘技、かな。格闘技っていうのは、決められたルールの中で、日頃鍛えた体や技を駆使して戦うスポーツだ」



 ミケとギルバードに説明しながら、俺の中で腑に落ちて来た。クリスマスじゃないけれど、年末に良く格闘技イベントが行われたりするし、俺も視た事もある。かなり人気の年末イベントだから、クリスマスにもやってみよう!という事なのかもしれないな。



「デスマッチなんて物騒な言葉にすっかり騙されたが、ただの格闘技イベントだわ、これは」



「そうか、そうか」と、腕を組んでウンウン頷く俺。疑問も解けてしまえば案外簡単なものだ。今なら、あの有名な小学生探偵にも勝てる気がする。



「……あの……」



 疑問が解け、心にゆとりの出来た俺、ミケと「イエ~イ!」なんてハイタッチしていると、舞ちゃんがおずおずと手を上げる。なんだ、舞ちゃんも名探偵とハイタッチしたいのかな。



「はい、舞ちゃん!」

「いえ、違います。聞きたい事が有りまして」



 ハイタッチと言うには低すぎる手の位置だったが、パチンと頑張って手を合わせるも、舞ちゃんは浮かない顔をしたままだった。



「ん、どうしたの、舞ちゃん?」

「デスマッチの説明は分かったのですが……。──ではなぜ、私達はここに居るのでしょうか?」

「……あれ?」



 根本的な疑問を投げ掛けた舞ちゃん。それに、浮かれた気持ちが一気に沈んで行く中、



「──!? 凡太、アレを見てください!」



 モニターを視ていたギルバードが、緊迫した声を上げてそれを指差す。と、同時に、ビリビリと細かく揺れていた控室が、ドンっと大きく震えた。

 モニターに目を向けた俺の目に、まるでクライマックスでも迎えたかの様に興奮が振り切った人々が、大声で何かを叫んでいた。ある一定の方角に向けて。カメラがそこ──恐らく貴賓室と思われる一角にある、バルコニーに設置された玉座──に向けられると、だれかがその前に立ち、自分に声援を掛ける人々に向けて、優雅に手を振っていた。だが、カメラのピントが合っていないのか、まだボンヤリとしたその姿は、あの多比良姫様から渡された手掛かりに書かれていた姿形そっくりだ。


(誰だ! 一体誰なんだ!!)


 早くピントを合わせろ!と俺の気持ちを汲み取った訳では無いだろうが、徐々にその人物にピントを合わせていくカメラ。そうして、ハッキリと映ったその顔は見覚えのある顔だった。


 その男は、一頻り手を振り終えると、カメラに向けて不敵な笑みを浮かべる。まるで俺が視ている事に気付いているかの様に。


 俺は知らず拳を握り締めていた。そして、その見覚えのある彼の名前を口にする。



「──土手……」、と──


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