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第十話 女神との別れ(同行人付き)

 


 ひとしきり踊って満足した俺は、ダ女神から手を離すと、



「なんか色々有ったけど、その、色々とありがとな」



 頬を掻きながら、お礼の気持ちを伝える。冷静に考えれば、このダ女神が得た物は、何一つとして無いのだ。対する俺は、チートになれる可能性と、その流れで銀髪美少女の使い天使ちゃんを手にしている。どこからどう見ても、この取引はwinwinでは無い。

 本当なら、色々と融通してくれたこのダ女神の世界、エルーテルを救いに行くのが筋なのだろうが、あいにくと、小さい頃に見たトラウマのせいでそれも叶える事が出来ない。それが、その事が心残りであるのだが、



「——良いのですよ、平さん。私の世界はそんなに柔じゃありません。きっと、次の勇者召喚まで持ち堪えてくれるでしょう……」

「……そう言ってくれると助かります。それに数々のご無礼を働きまして、済みませんでした」

「うふふ。平さんもそんな殊勝な事を言えるのですね。大丈夫です。何か私も楽しかったですし」



 手を口に当てて、上品に笑うダ女神。……いや、もうすぐお別れなのだ、最後位、心の中でも女神様と呼んで差し上げよう。



「あのう、僕がこんな事を言うのも何なんですけど、次の勇者召喚まで持ち堪えるって言いましたけど、そもそも勇者召喚ってそんなに大変な事なのですか?」



 さきほどの女神様の言葉に、気になる所が有ったので、聞いて見る事にした。すると女神様はその表情を暗くし、



「……はい。他の世界から、自分の世界を救うべく勇者を召喚するには、およそ一年間は瞑想して神威を高める必要が有ります……」

「い、一年間、ですか……」



 俺はその期間の長さに驚愕する。という事は、あの惨劇が最低でもあと一年間は続くという事だ。あと、どれくらいの住人が生き残っているのかは分からない。だが、あのままで行けば、あの世界の住人は間違いなく魔王に滅ぼされてしまうだろう。


(聞かなきゃ良かった、な……)


 その事実を聞いた所で、俺は助けに行けないのだ。ならばそんな事を知りたくは無かった。俺は彼らを見殺しにするのだから……。


 きっと俺は、情けない顔をしていたのだろう。知らず握り潰し、震える拳にそっと、女神様が自分の手を重ねてくる。



「気にしないで、平さん……。貴方は私の世界を心配してくれました。そして一緒に怒ってくれました。悔しがってくれました。それだけで充分です……」

「……女神、様……」



 頬を何かがつぅっと流れる。それが涙だと認識した途端、止めどなく流れていく。恥ずかしくて、見せたくなくて、俯く俺の頭を、優しくて温かい手の平がそっと髪を梳いていく。



「ありがとう、平さん。私の世界を想って、泣いてくれてありがとう……」

「ひぐっ。えぐぅ。ご、こちらこそ、ずずっ、ありがどう、ございまじたぁ……」



 優しく髪を梳いていくその感触は、僕が泣き止むまで続いた。



 ☆



「ぐずっ、済みません。情けない姿を見せてしまいました」

「いえいえ、可愛らしかったですよ♪」



 泣き止んだ僕は、何度目か分からない謝罪の言葉を口にする。その言葉に、女神様が少しお茶らけて返してくれたのは、きっと俺を気遣ってのことだろう。



「さて、そろそろお時間となりそうです。——平さん、最後に何か聞きたい事は有りますか?」



 最後だという事で、金色の大錫杖を手に持つ女神様。最後位は威厳ある女神の恰好でいたいそうだ。



「いえ、特には……。次の勇者召喚は半年で済むって事ですし、そこは少しだけ安心出来ましたし」



 そうなのだ。本来ならば、勇者召喚には一年間も掛かるらしいのだが、今回は俺をエルーテルに送らなくて済んだ分、神威をそこまで消費していないらしく、半年位瞑想して神威を溜めれば、次の勇者召喚が出来る様なのだ。

 ちなみに神威とは、神々の魔力みたいな物だと、女神様は説明してくれた。



「そうですか。——それでは平さん、使い天使の事を宜しくお願い致しますね」

「はい、分かりました。大切にお預かりします!」



 俺のその言葉を聞いて、今までで一番の笑顔を、まさに女神の微笑みってやつを俺に見せた女神エルニア様に、俺の頬は知らず熱くなっていた。

 それを誤魔化す様に、女神様から視線を外す。そして、俺の後ろに控える様に立っている、銀髪の使い天使ちゃんの頭に手をポンっと置いて、



「という訳だから、これから宜しくな。天使ちゃん!」

「……はい、お願いします……」



 俺の挨拶に、不愛想に返す使い天使ちゃん。う~ん、最初はこんなものなのかもしれない。

 すると、俺の耳に、例の女神様の発する音が聞こえる。時間の様だ。

 そして音が消え、女神様が大錫杖を横に大きく振るうと、「シャラン」と錫杖の音が空間に鳴り響き。次いでマンホール大の光の輪が現れた。



「お時間となりました。平さん、お会い出来て良かったです。もうお会いする事は無いかもしれませんが、貴方の行く末を見守っていますよ」

「はい、色々と有難う御座いました。僕も女神様にお会い出来たこと、とても嬉しかったです」

「——それは、この胸が見れたからですか?」

「はいっ!ってえぇ!? いつから気付いていたんですか!?」

「クスクス♪ 平さんの前に姿を現してから、すぐに気付いてましたよ。ダメですよ?女の子は、胸への視線には敏感なのですから」

「……はい、気を付けます……」

「はい、宜しいっ♪ ……それでは、平さん、お気を付けて。使い天使の事、お願いします。使い天使も、お願いしましたよ?」

「はい。仲良くやって行きたいと思います」

「……了解しました」



 それでは!と女神様に手を上げると、ブゥゥンと光る光の環に近寄る。



「それじゃ、行こうか。使い天使ちゃん」

「(コクリ)」



 俺の言葉に、返事を返さずに首肯だけする使い天使ちゃん。


(上手くやっていけるのか、な)


 多少の不安を抱えながら、女神様に振り向き、



「それではっ!」

「はいっ。善行ポイントで解らない事がありましたら、使い天使に聞いてくださいねっ!」

「はいっ!」



 そう返事をすると、足元の光の環に飛び込んだ————。





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