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第四十一話  幽閉

 おじゃる言葉を使う幼女に、俺は少し浮かれていた。別に幼女趣味では無いが、やはりおじゃる言葉と幼女のセットはファーストフード店にあるどんなバリューセットよりも男心をくすぐるものがある。そんな俺の心を読み取ったのか、



「ふむ、やはり男にはこの言葉遣いが一番じゃ。わらわもまだまだ捨てたもんじゃないのぅ♪」



 うむうむと頷く幼女改め多比良姫様は、にこぱと幼女らしい笑みを浮かべた。そのとても嬉しそうな笑顔をずっと見ていたい気持ちに駆られていると、隣に座っていた舞ちゃんが質問する。

 ちなみに天狗の天さんは、部屋から退室している。気を利かせてくれたのかもしれない。



「……多比良姫様、それで、私達をお呼びになられた理由を教えてもらえないでしょうか?」

「……何じゃ、お主。少しばかり言葉が冷たく感じるが? あぁ、そうか。さてはお主、そこの男の事──」

「──多比良姫様っ! 何用で、しょうかっ!?」

「う、うむっ!?」



 何かを言い掛けた多比良姫様の元に、いつの間にか移動していた舞ちゃんが詰め寄る。いつ移動したのか、俺には全く見えなかった……。

 舞ちゃんに詰め寄られた多比良姫様は、そのあまりな迫力にたじろぐも、神様の威厳を示そうとしたのか、コホンと一つ咳払いすると真面目な顔付きとなって、



「では聞くがの、……お主たち、最近エルニアとは連絡が取れておるのかの?」

「──!?」



 息を呑む舞ちゃん。だが、それも当然の事だった。まさか、いきなり女神エルニア様との事を聞かれるとは思ってもみなかったからだ。というのも、俺と舞ちゃんはここに来る前に、相手の話が終わったら、最後に女神様の事を聞こうと話し合っていたからだ。


 だが、相手の話の切り出しからまさかその名前が出てくると思っていなかった俺と舞ちゃん。すっかり言葉を失っていると、「ふむ」と、どこか納得した様子の多比良姫様。



「その様子では、連絡が取れていないようじゃの。そうか、やはりか……」

「多比良姫様、何かご存知なのですか!?」

「まぁ、落ち着くのじゃ、娘。お主たちをここに呼んだのも、その話をする為じゃ……」



 再び詰め寄った舞ちゃんを手で制すると、真剣な眼差しを崩さないまま、考え込む。

 その間に俺の隣へと戻って来た舞ちゃんだが、その視線は、考え込んでいる多比良姫様を一心に見つめていた。


 そうして多比良姫様が話始めるのを待っていると、ようやく──といっても実際には、そこまで時間は経っていなかったかもしれないが──、ポツリと多比良姫様が話し始めた。



「そう、今日お前達を呼んだのは他でもない、エルニアの話をする為じゃ。まずはお主らに聞こう。連絡が取れなくなる前、最後にエルニアと話したのは何時じゃ?」

「はい、私が最後にあの御方と連絡が取れたのは、夏を少し過ぎた頃だったかと思います」

「その時の様子はどうじゃった?」

「……特に変わりは有りませんでした。凡太さんの近況をご報告した後、私の事も少しお話して……」

「そうか……。男はどうじゃ?」

「俺は、エルニア様と交信する事は無かったから。たまに向こうから連絡が来るくらいでした」

「お主はあまり連絡を取っては居なかったのかの?」

「はい。俺自身、エルニア様と連絡を取り合う必要性を感じなかったものですから」

「そうか……」

「多比良姫様! まさか、あの御方の御身に何かあったのですか!?」

「落ち着けと言っておろう、娘。エルニアを心配に想う気持ちは分かるが、まずは落ち着くのじゃ。きちんと順を追って説明するからの」

「……はい、失礼致しました……」



 座っていた座布団から腰を上げた舞ちゃんを、やんわりと(たしな)める多比良姫様。こんな舞ちゃんを見るのは初めてだ。が、それも当たり前か。舞ちゃんにとって女神エルニア様は、親みたいなもんだろうからな。



「うむ。では、話を進めるかの。娘の言う通りならば、夏過ぎまでは問題無く、連絡が取れたという事じゃな。それが突然連絡が取れなくなってしまった。それは何時じゃ?」

「はい、九月の初めには、全く連絡が取れませんでした」

「そうか。わらわと同じくらいかの」

「多比良姫様も、エルニア様と連絡を取っていたのですか?」

「うむ。ちょうど、夏の祭りを見守る大事なお役目を終えて、エルニアと約束していた用事を果たそうと思っての。連絡をしたのじゃが、全く通じん。こんな事、滅多に無かったからの。少し心配していた最中、神伝手(つて)に聞いたのじゃ。……何でも異世界を統べる神の一柱が、幽閉された、と」

「……え? 幽、閉?」



 ポカンと口を開けたまま、動かなくなった舞ちゃん。俺も、普段聞き慣れないその言葉の意味を理解しきれなかった。



「うむ。理由を聞いたら、なんでも、他の世界に混乱を招いた、と言っておった」

「他の世界に、混乱を、招く……? ──あ!」

「うむ、さすがエルニアに認められた男、よう頭が回る。そうじゃ、ついこの前発生した、無差別テロ殺人事件と呼ばれるあの出来事じゃ」



 そう、俺達の学校が巻き込まれた、無差別テロ殺人事件と呼ばれた、エルーテルに棲む魔物であるリザードマンによる殺戮劇。多比良姫様はその事を、混乱と仰っているのだ。



「そんなっ!? あの御方は何も関係有りません!!」

「当たり前じゃ。エルニアがあんな事をする訳が無い」

「ならば──」

「じゃが、状況が物語っておるじゃろう? エルニアの統べる世界に棲む魔の者が、学校という一部とはいえ、この世界の秩序を壊したのだから」

「そんな……」

「……安心せい、わらわを含めたこの世界の神々は、あのエルニアがそんな事をする事は無いと解っておる。解っておるのだが……」

「……何か、あったのですか?」

「うむ、これも神伝手に聞いたのだが、どうやらエルニア本人が認めているらしいのじゃ。この世界に混乱を招いた事を、な」

「何だって!?」



 今度ばかりは俺も言葉を無くしてしまう。あの事件の事を認めただって?! あの女神は一体なにを考えているんだ!?



「驚くのも無理は無い。わらわだって驚いたのじゃから。じゃが、わらわはどうしても、あのエルニアがしたとは思えないのじゃ」

「当たり前です! あのダ女神に、そんな事をする理由も、メリットも無い!」

「ダ女神とは、随分な言い草じゃのう。じゃが、わらわもそう思う。そんな事をする理由が見当たらん。そこでわらわはエルニアは何かを隠しておると踏んだのじゃ。その何かは分からないが、恐らく、今回の事件を起こした犯人じゃとわらわは推測しておる。そこでじゃ!」



 そこまで言うと、多比良姫様はすくっと立ち上がり、小上がりを降り、俺達の前までくると、ポンっと俺達の方に手を置いて



「お主ら二人で、その犯人を捕まえてほしいのじゃ! あのエルニアの為になるかどうかは分からん。じゃが、このままでは、恐らくエルニアはずっと幽閉されたままになるじゃろうて」

「そんな!?」

「じゃから、犯人を見つけて欲しいのじゃ! わらわも存分に協力する!」

「分かりました! 俺達に何が出来るか分かりませんが、やってみます! 良いよな、舞ちゃん?」

「もちろんです! あの御方がそんな事をする筈が無いのは火を見るよりも明らかな事! 必ずや、犯人を見つけ出し、エルニア様の冤罪を晴らすまでの事!」



 目の中に、メラメラと燃える火を(たぎ)らせながら、舞ちゃんは勢い良く立ち上がると、あろう事か、俺が着ていたパーカーのフードを引っ張り上げ、



「ほら、凡太さん、行きますよ!」

「まま、待ってよ、舞ちゃん! すぐに立つから!」



 瞳を燃え上がらせ、やる気を漲らせる舞ちゃんが、早く立つように催促する。俺も慌てて建とうとした時、腹がぐぅと空腹を訴えてきた。そういや、天さんにここに連れて来られたのは、夕飯前だったもんな。そりゃ、腹も減るよ。……ん、夕飯……?


「しまった! そろそろ夕飯の時間じゃん! 早く戻らないと怒られる!」

「ん、なんじゃ? 夕餉(ゆうげ)の時間かの? ならば安心せい、お主らがここに来た時から、下界の時間を止めておるからの」



 と、何気なくとんでもない事を口にする多比良姫様。



「時間を、止めた、ですか?!」

「うむ。簡単では無いが、難しい事でも無いの。逆に時間を進める事も出来るのじゃ」



 フフンと得意げな多比良姫様に、「それは凄いですね」と素直に驚きを示すと、機嫌を良くしたのか、



「そうじゃ、わらわはスゴイのじゃ! うんうん、気分が良いの! よし、わらわも腹が減ったから夕餉とするかの! お主たちも付き合え!」

「え?! でも、家でも夕飯の準備がされていると思いますから、今回は遠慮──」

「良いから付き合うのじゃ! 大丈夫!下界の時間は止めてあると言ったじゃろ? なら、わらわと夕餉を済ました後に下界に戻って、また食えばええ」

「そんなに食えませんよ!?」

「そうなのか? 最近の男は小食なのかの? あれか? 巷で良く聞く“だいえっと”とやらか? ならば安心せい、お主は太っておらぬよ。それにな、わらわの世話人の作る料理はどれも絶品じゃぞ? ここで食わねば一生口に出来ぬぞ?」



 さて、どうする?と、意地悪な笑みを浮かべる多比良姫様。確かに、この広間に来る時に通った廊下で、とても美味しそうな匂いがしていたのを思い出す。すると、腹の虫が、「ここで食ってけ!」と自己主張した。



「……お供致します……」

「うむ! では用意させよう! 久方ぶりの客人との夕餉じゃ! 楽しみじゃのう! もちろん娘も食っていくよな?」

「……はい、頂きます……」

「うむ!!」



 俺と舞ちゃんの返事を受けると、満面の笑みを浮かべる多比良姫様なのであった。


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