第一章 プロローグ
こちらもお付き合いください。
PROLOGUE
幽玄とも取れる空間の中で、私は手に持った水晶玉に映る、ガラガラと音を立てて崩れ燃えていく城の尖塔を見ていた。
また、一つの国が滅んだ。あそこには私が召喚、派遣した勇者とその一行が居たというのに。彼らには、私が用意出来る、最上の装備を託したというのに——。
「今回の魔王は、それだけ強いと言うことなのね……」
目を瞑る。それで、彼らには謝った事になるとは思ってもいない。それでも、彼らに黙祷を捧げたかった。
「魔王自らが出てきていないのに、これだけの強さを誇るなんて……」
遠見の水晶玉に、魔王本人は確認出来なかった。そこには、魔王直属の幹部が数人居ただけ。だが、その魔王幹部にでさえ、私の勇者パーティーは勝てなかったのだ。
「また、救えなかった、のね」
魔王軍に滅ぼされた国の住人は、女神である私に、援助を求める祷りをずっと捧げてきたというのに。その求めに応じて、私の用意出来る、最高の戦力を投じたというのに……。
水晶玉には燃え盛る王都が移る。あの中には、私に祷りを捧げてくれた者も居た事だろう。
「——くっ」
歯噛みする。悔しさで。何も出来なかった情けなさで。
映ってはいないのに、魔王が嘲笑しているのが、目に見える様だ。
(——今の内に笑っているがいいわっ!)
大天上の錫杖を握る手に力が籠る。
また一年間、力を蓄えなくてはならない。
(その前に世界が滅びなければ良いけれど……)
弱気な言葉がポツリと口から漏れ出る。あの魔王を倒すために、地上に送り込んだ勇者は、今回で10と7。しかも今回送った勇者は、今までに召喚した勇者の中では破格の力を持っていた。それだけに、弱気になるのも当然かもしれない。
(——うぅん!弱気になっては駄目! 次よ!次こそは必ずっ!!)
あの魔王を滅ぼすまでは、絶対に諦めないっ!!
決意を新たにし、再び力を貯めるため、天上の間にて何度目かも判らない瞑想に耽っていく……。