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魔女の異世界旅行  作者: 赤間
3/6

episode3

 〈異世界について 著書エーデル学士

 この世界で語られる真実は数少なく、ここで論じる物もその中の一つに過ぎない。そしてそれの虚実は今はどうでもいい。唐突だが、“パラレルワールド”をご存じだろうか。それは平行世界とでも言おうか。現実社会において、オカルト界隈では有名な話だと思う。この世には複数の宇宙が存在する、などの話をよく耳にする。私はそんなオカルト界隈で聞いた話の中で最も興味深い内容を知る事が出来たのでここに記そうと思う。

 第一に、上記に記した平行世界についてだ。決して交わる事が無い二つ目の現世。しかしそれを目にする事が出来る者はほんの一握りしかいない。普通に生活するうえで特異点に達する事が無ければふれあうことのできない世界だからだ。私が知った情報は、その特異点についてだ。平行世界の特異点が稀にこの現世に発生することがあるらしい。特異点が発生するのは決まって「神聖な場所」であることが判明した。これは私の助手と研究チームにより、長年にわたって判明する事が出来た。その「神聖な場所」というのは教会や神殿などを指す。「神聖な場所」と言えど、全てに発生するわけではない。決まっているようだ、どこに発生するのか、いつ発生するのか。だが、まずはその平行世界について記すことにしよう。

 第二に、平行世界について。私たち研究チームは、その知った平行世界について、「異世界」と呼ぶことにしたのでこれからはそう呼ぶことにする。異世界について知る事が出来たのはとある科学者の論文を拝見したときの話だ。彼は錬金術とその歴史など、錬金術に関する論文を発表していた。この現代科学社会において、珍しい論文を発表したので世界的に有名になった。彼の論文には、一部の人間に刺さるような言葉がびっしりと書かれていた。一部の人間と言うのは分かりやすく示すと、オカルト界隈の中の一部の人間、とでも言おうか。宇宙からやってきたエイリアンの侵略、宇宙からやってきたエイリアンから受けた影響によって、その時代では有り得ないようなことを成し遂げた、などの話がずらりと載っていた。錬金術も、その中の一つだと彼は論文で語っていた。そして、エイリアンに対して、彼はこう言っていた。「エイリアンと言うのは、平行世界から来た私たちなのだ」と。私は面白い、そんな好奇心だけで平行世界について研究することにした。周りの人間は私を馬鹿にした。だが、優秀な部下を持つ私には、馬鹿にするような輩は関係なかった。すぐに人は集まり、研究チームを作ると、平行世界、いわゆる異世界について調べ上げた。そして上記に示した通り発見した。特異点を、異世界へ通ずるであろう特異点の発生を見つける事が出来たのだ。

 では特異点とは何か。分かりやすいたとえと言えば、某漫画にある「どこでもドア」だろう。あれは場所と場所を紡ぐものがあのドアであり、ドアには地図が搭載されていて思い浮かべた場所へ移動する事が出来る優れものだ。特異点とはそのたとえで言うなればドアを示す。場所と場所を紡ぐ架け橋だ。だが私が記している特異点とは、もともと行き先が決まっているものだった。だが、特異点は世界中に一つだけあるわけではなかった。日にちや発生する時間帯、発生後の存在時間は異なっているが、複数存在することを発見した。私はその特異点へ入り、異世界へ行こうと思う。まずはどこに、いつ発生するのかを記しておこう。

 一つ目、ドイツ、——神殿。朝方。

 二つ目、日本、——県——市、——神社。夕刻。

 三つ目、太平洋——(細かな座標のような数字が記載されている)。丑三つ時。

 最後に四つ目、——。——。

 私たち研究チームはそれぞれ分かれて、レポートや写真などの記録を通して世間一般に広めようと思う。もし、この書籍が禁書処分を受けたとしたら、私はきっとこの世にいないだろう。〉

  

   *


 私はどうやら眠ってしまっていたらしい。机に突っ伏し、手には書物が握られていた。すぐそばにはティンテが力尽きて寝てしまっているようだ。私はハンカチを手に取り、ティンテに被せてやった。窓を見ると外はすっかり暗くなっていた。時計を見るに、午前三時と言った所か。この時間なら起きていても問題はない。それにまた寝てしまったら遅く起きてティンテに叱られてしまう。

 収穫があったぞ。この本にしっかりと書かれていた。さすが、禁書処分を受けただけはあるな、私は心の中でガッツポーズをした。

 今日は準備だけしようか。あとはヴェーガに旅に出る事を伝えなければならない。彼女と彼女の父親、そしてエリーゼとの約束を果たすために、私は立ち上がった。


 「あら、リーゼ。起きていたの?」

 「ええ、変な時間に起きてしまって、そのままよ」

 「道理で顔色が悪いわけね」

 「あら……」

 「寝不足も、徹夜も、お肌の天敵よ?美少女には酷だわ」

 「私はもう少女じゃないわよ」

 「そうかしら?まだ若いでしょ」

 「……」

 そんな会話を交わしながら身支度を済ませる。トランクに軽く荷物を詰め、今日は遠出をしようと思った。その前に、彼女の古書店へ出向く。——いや、墓へ行こう。彼女に報告するのが先だ。

 エリーゼの墓の前まで来た。

 「エリーゼ。少し、旅に出ようと思うわ。ヴェーガと約束したことがあるの。彼女と、彼女の父親のために、私は先を急ぐ。エリーゼ、もう少し待っていてね。魔法を完成させ、貴方と対話できる、その日まで。……チュース(さようなら)。」

 墓石にキスをし、私はヴェーガのいる古書店へ向かった。

 「え、本当?分かったの?たった一日で?」

 「貴方からもらったあの禁書に全て記載されていたわ。だから、この本たち、全部返すわね」

 「え、ええ。それはいいけれど、……よくやったわね!リーゼロッテ!貴方なら出来ると思っていたわ!」

 そう言うや否や、ヴェーガは私が手渡した本の山を手から落とし、私に抱き着いた。

 「ちょっと、ヴェーガ!本が」

 「良いわよ!あとで直すもの!ねえ、ちゃんと手紙寄こしなさいよ?写真とか動画とか撮って、あたしに送り付けてね!絶対よ?」

 「分かった、分かったわよヴェーガ、落ち着いて」

 「ふふ!楽しみね!生きて帰ってくるの、絶対。分かった?」

 「分かった、分かった。ヴェーガ」

 私はヴェーガをもう一度抱き寄せ、額にキスをした。

 「!?」

 「待っていてね」

 「あ、え、ええ!勿論!」

 ヴェーガは顔を紅潮させ、思い切り返事をした。


   *


 ドイツにある、とある神殿へやってきた。この時間帯でも人は意外といるものだ。その場にいた人々は私を見つけるや否や、「おい、あの変人が来たぞ」「何しに来たのかしら、あの魔女」とささやき声が聞こえてくる。もう慣れた。

 神殿の中を暫く探索したが、何かあるわけでもなかった。森の中を散策していると、歩道から逸れてしまったのか、人影がほとんどなくなった。それを見計らい、ティンテは私に話しかけてきた。

 「今日はここに何しに来たの?」

 「視察よ。本に記載されていた情報をもとにここへ来たのだけれど、どこに特異点が発生するのやら」

 「とくいてん?」

 「ああ、ティンテにはちゃんと話していなかったわね」

 私は本に書いてあった内容を手短に、簡単に話した。

 「ふーん」

 「分かった?」

 「まあまあね。でも、本当にその特異点が発生するのであればその時間に来ないとダメなんじゃない?」

 「そうね……どうしましょう。明日もここに来る予定なのだけど」

 「じゃあこの近くのホテルに泊まりましょ!そうすれば行けるかもしれないもの」

 「そうね。なら、今日は一度帰って、しっかりと身支度を済ませましょう」

 「賛成~!」

 私たちは来た道を戻り、列車に揺られていた。今日はちょっとした視察を兼ねて外出をしただけだったので、久しぶりに外食をして、美味しい物をたらふく食べた後、家に帰った。部屋に入ると、先に明後日にホテルの予約をしてベッドに横たわった。疲れがどっときて、睡魔に襲われた。気が付けば寝てしまっていた。

 「リーゼ!起きて!」

 「あ」

 「大丈夫?」

 「大丈夫よ、今何時?」

 「えっとね、朝の七時くらい」

 「そう。なら今から準備を始めましょう」

 「はーい!」

 大きめのトランクに着替え、一眼レフ、レポート用紙を束にして持っていくのと同時にクリップボードも持っていこう。インクも忘れずに。異世界について書かれた本は手持ちで持っていく事にして、あとは。

 「もう十分かしら」

 「ヴェーガのために、動画とかも撮って送るんじゃないの?」

 「そうね、ならタブレットを持っていきましょうか」

 最近買ったタブレットは薄型で写真の映りも良いし、容量的に動画を撮るのに適していた。

 「レポート用紙、こんなにいるの?」

 「私は紙媒体を使うのが好きなの。貴方がいるのに紙を使わないなんておかしいでしょ?」

 「それもそうね」

 もちろん、タブレットでもメモはできるし写真も撮れる。だが、そればかりに頼るのは私は好きではなかった。

 「さて、明日のために今日は奮発しようかしら」

 「お?」

 「食べに行きましょ」

 「やったー!」

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