錠剤
「だけど考えてみろよ。 死ぬなんていつでも出来んだろ? こうやってたまに会って温い瓶ビールを飲む幸せってのも捨てがたいと思わねぇか?」
「確かにお前と飲むこの温い瓶ビールが今の俺の唯一の支えだよ。 でもさ、だからこそ思うんだよ。 温い瓶ビールにしか生きる意味を見出だせないってかなりイタイだろ?」
「…それは否定できねぇけどさ、それを言ったら人間全てがイテェもんだぜ? 錠剤一粒で終われる生に救いを求めるなんて、ちょいとエゴが過ぎるんじゃねぇか?」
「分かっているけどさーーー
『ーーー本日8月8日の錠剤死の人数は、日本653人、アメリカ1288人、中国2552人、イギリスーーー』
ほら、テレビも言ってるだろ? 錠剤死なんて世界のムーヴなんだから、俺がそれを実行して何が悪い? 死が解放だなんて思わないけれど、もう何も考えなくていいってのは俺からしたらかなり魅力的だね」
「本当にお前はああ言えばこう言うやつだよな。 分かったよ、もう止めねぇよ。 そしたらいつ錠剤を飲むんだ?」
「お前にだけは言われたくないね。 まぁ決めたらすぐに実行だよな。 ってことで今ここで飲むわ!」
「今までで一番いい笑顔で言うセリフかねぇ…。 でもま、決めたんならしゃあないやな。 錠剤センターには俺が申請出しとくわ」
「おっ、持つべきものは親友だな。 じゃあ先行くわ! 今までありがとな!」
「…ったく、これから俺は誰と温い瓶ビールを飲めばいいんだっての。 変に頑固だな奴だったからな…ってやっと漬物が来たのか。 定員さんちょっと遅いんじゃない? 待ちきれなくて一人いっちまったよ」
「すみません! 今朝僕以外の従業員がみんな錠剤死してしまって、今一人で店回してるんです」
「あちゃー、そりゃ御愁傷様。 文句言って悪かったな。 俺から一杯どう?」
「ありがとうございます! 僕もバイト終わりでいこうと思ってたんで、錠剤飲むときに乾杯してもいいですか?」
「ブフッ! ハハハハハハッ! この店無人になるじゃねぇか! ったく笑わせんじゃねぇよ」
「お客さん以外が帰ったら僕もバイト上がりますんで、乾杯の後は適当にやっちゃって下さい!」
「アハハハハハハッ! ひでぇ店員もいたもんだな! お前気に入った! まぁ今日でこの店でも飲み納めだからな。 気長に待ってるわ」
「了解しました! では後ほ…はいっ!ただいま参ります!」
「あぁ、いい夜だなぁ…」