音色を奏でるモノの怪 4
何とか胃の中身を吐き出すことなく、気持ちを落ち着かせたミナは再び職員室の中を漁る。
教師の机はもちろん、棚のファイルも全て調べた。
鍵のかかっていたガラス張りの棚も、近くにあったガムテープと工具箱にあったハンマーを使ってガラスを割って鍵を開けた。その手口は完全に泥棒の手口だったが、ミナはもうここが現実の世界でないと確信を持っていたので、躊躇うことはなかった。もしハンマーがなければ椅子でもなんでも使って開けようとするくらいには遠慮もなかった。
割れたガラスで手を切らないように慎重に中のファイルを取り出していく。
鍵が掛かっていただけあって、ここで月光の楽譜を一枚手に入れた。余談だが、音楽教員の引き出しの中には楽譜は一枚も入ってなかった。ミナが少し強めに引き出しを閉めたのも仕方のないことだろう。
見つけた楽譜には『月光の楽譜③』と書いてあることから、これは三枚目の楽譜なのだろう。
ミナは見つけたそれを鞄の中のファイルに挟んだ。
これで職員室はあらかた見終わっただろう。
ミナは鞄を持ち直して、職員室から出た。
ここで一度、ミナの鞄の中について補足しておく。
《持ち物》
・数学の教科書
・ノート
・筆記用具(シャーペン、消しゴム、カッターナイフ、折れた定規)
・ファイル(月光の楽譜③)
・スマートフォン
・家の鍵
・財布
・ハンマー
・ガムテープ
・視聴覚室の鍵
・保健室の鍵
・理科室の鍵
・体育館の鍵
・図書室の鍵
である。
ちなみにガムテープとハンマーはさっき窓を割る時に使ったものを拝借した。これでガラスならいつでも割れる道具が揃ったわけである。
各教室の鍵は職員室に入ってすぐの所に掛かっていたものを出る時に拝借したのだ。
ミナはハンマーを片手に今度は一度自分の教室に戻ってみることにした。
ハンマー片手に校内を歩く少女。しかも靴には血が付着している。
その絵面は完全にやばいものだが、周りには誰も居ないのでミナはそのことに気付かない。
2年B組と書かれた教室の扉を開けて、真っ先に調べたのは教壇の中だった。
中には生徒名簿があり、そこにはもちろんミナの名前が乗っている。けれど、それ以上の情報はなく、ミナが次に見たのは自分のロッカーの中だった。
ロッカーには数冊の教科書と授業のプリントを纏めたファイルがある。パラパラと軽く中身を確認するも、何も出てこなかった。
次に見たのは掃除用具入れだ。そこにはやはりというか、箒とちりとりしか入っていない。
しかし、こういうのは一番上の棚に何かがあるのがセオリーである。
ミナは近くにあった椅子を動かして掃除用具入れの奥を覗き込む。奥にキラリと光るものが見えた。しかし、ギリギリで手の届かない位置にあるそれにミナは舌打ちを一つ零すと、折れた定規をガムテープで補強してから奥のものをかき取るように使用した。
落ちてきたのは小さな鍵だった。
実はこれが先程ミナが壊したガラスの扉の鍵なのだが、ミナはそんな事知る由もない。
これで探索は少しスムーズになるはずだ。とミナは喜んだ。その鍵がもう意味の無いものとは気付かないまま。
ミナは椅子から降りるとハンマーを鞄の中に終い、代わりに箒を手に取った。
リーチが長い方が有利なのではないかと考えた結果である。
ミナは箒を片手になんの妨害に遭うことも無くサクサクと二階の教室を攻略した。
その結果。手に入れたのは2年B組の掃除用具入れで見つけた(用無しの)小さな鍵と2年C組で見つけた空のペットボトルだ。水道で水を並々入れたミナは、(その水が赤黒い色をしていることにはスルーした。)きちっと蓋を閉めてから鞄ににしまい込んだ。
現在のミナの持ち物は以下の通りである。
《持ち物》
・数学の教科書
・ノート
・筆記用具(シャーペン、消しゴム、カッターナイフ、繋げた定規)
・ファイル(月光の楽譜③)
・スマートフォン
・家の鍵
・財布
・ハンマー
・ガムテープ
・視聴覚室の鍵
・保健室の鍵
・理科室の鍵
・体育館の鍵
・図書室の鍵
・小さな鍵(職員室のガラス棚の鍵)
・(赤黒い)水の入ったペットボトル