音色を奏でるモノの怪 3
※微グロ注意
何も思い出せない焦燥感から、早く思い出さないと…という脅迫概念にも似た何かに突き動かされて、ミナは廊下を早足で歩く。
もちろん男の子の楽譜も同時進行で探していく。トイレの花子さんと同じように無視をしてもいいハズなのに、何故だかミナにはそんな考えは一切浮かんでこなかった。
探さなければ。そんな考えてに突き動かさて向かった場所は職員室だった。
そこなら音楽担当の先生の机に月光の楽譜があるかもしれないし、アルバムとか書類などからミナについても何か分かるかもしれないと思ったからだ。
職員室は音楽室の反対側の一番奥にある。
職員室に着くや否や、ミナは乱暴に扉を開けて勝手知ったるとばかりに職員室の中を闊歩する。
︎︎最早、先生が残っているなんて考えはなかったからだ。
真っ先に目を付けたのは入って正面に位置する一番大きな机だった。
机の上は乱雑と様々な書類が置かれている。けれど、どれも必要のないものばかりだ。
ミナは引き出しを上から順に開けていく。1番上の引き出しには判子や朱肉などの筆記用具類が入っていた。特に使えそうなものはない。
次に真ん中の引き出しを開ける。紙の束が入っていたが、これはもう終わった過去のプリントらしかった。
最後に一番下の引き出しを開ける。中には少し古びたアルバムが一冊だけ閉まってあった。
中身を見てみると、どうやら数年前のアルバムらしい。ぱらぱらと捲っていると、『私たちの将来の夢』という特集のあるページに新聞のスクラップが挟まっているのを発見した。
そのページには『3年A組 音橋奏一郎』『僕の将来の夢は、ピアノの先生になることです。』と書かれている。
そこに挟まっていた新聞のスクラップの見出しには大きく『人身事故 卒業間際に無念の死』と書かれている。
どうやら一人の男子高校生が卒業式当日に電車に跳ねられて亡くなったらしい。
新聞に名前は載っていないが、おそらく挟まってた位置からして亡くなった男子高校生とは『音橋奏一郎』のことだろう。
さらに手掛かりがないかとアルバムを捲っていると、一番最後のページにも新聞のスクラップが挟まっていた。そこにはこの高校の名前と、卒業直後の三人の高校生の死について書かれていた。見出しには『犯人不明 未来ある若者の未来を襲った不可解な事件』と書かれている。
なんでも亡くなった三人の高校生は、まるで獣に引きちぎられたかのように手の一部が無くなっていたのだという。
その一文を読んだ時、ミナの頭に音楽室にいた生徒の血塗れの手が浮かんだ。
あの手は、まるで合わないものを無理やり繋いだような、そんな歪な手をしていなかっただろうか。
「おぇ……」
自分の考えに吐き気がした。