更科実成の怪 2
開けた瞬間、ミナは懐かしいような、初めて嗅いだような、そんな家の匂いを肌で感じた。
玄関には女性のヒールが揃えて置いてあり、それが自分の母のものだと分かる。
何かを焼いているのか香ばしいいい匂いがして、それにツンっと鼻の奥が痛くなる。
「おかあ、さん…」
靴を脱いでリビングへの扉を開ける。
「実成?」
あぁ!お母さんだ!お母さんがいる!!
鞄を投げ捨てて、母に抱きついた。
「学校はどうしたの?何かあった?」
母には温もりがあった。鼓動の音だって聞こえた。
「ずっと、長い夢を見ていたの…」
これも夢しれない。でも、それでも良かった。
あんな世界よりも、この世界の方がいい。
だってこの世界なら、お母さんに会えるもの。
会話も出来て、料理だって作ってくれる。
「怖くてね、寂しかったけど、もういいの」
母は私が何を言っているのか分からないのか、ただ困惑した様子で私を見ていた。
「きっともう、全部終わったのよ」
たとえこれが妄想でも、壊れたデータ(ミナ)が見ている夢だとしても、この世界が未だゲームの世界で、ただ閉じ込められているだけだったとしても、それでもミナは良かった。
母の温もりがあって、会話が出来て、それ以上に何を求めるものがあるだろうか。
ミナは母の腕の中で目を閉じた。
「ゲームエンドよ」
更科実成の怪 終




