更科実成の怪 1
雨の音がして目が覚めた。
「ここは…」
ガヤガヤと騒がしい教室に座っていたミナは、音のする方へと目を向けた。
教室の窓から見えるしとしとと降り注ぐ雨を、ミナはまるで誰かの涙のようだと思った。
それでも、雲の隙間からこぼれる優しい日差しは、何かの誕生を祝うように暖かくこの地に降り注いでいた。
「今は、昼…?」
外は雨のため曇ってはいたけれど、それでも雲の間から零れる柔らかな日差しが今が昼であることを告げる。
ガタリと椅子を倒す勢いで立ち上がる。
その音に、シン…と静まり返る教室。
バッと視線を外から中に向けると、そこには一度も会ったことのないクラスメイトたちが音の発信源であるミナを見ていた。
「ミナ、どうしたの?」
「大丈夫?」
親しげに話しかけてくる二人はミナの友人だろう。
それでもそれに返すことが出来ずに、机にかけてある鞄を手に取り、転がるように教室を出た。
「ミナ?!」
友人の声を背後に走る。
「更科!どこに行くんだ?!授業始まるぞ!」
担任の声が聞こえてきたが、それにも返す余裕はなく、ただひたすらに走って昇降口を目指す。
走って、靴を変える時間さえ惜しくて上履きのまま扉に手をかけた。
その扉は何の障害もなく、簡単に開いた。
そのまま傘もささずに雨の中を走った。
その間、何もなかったし、何も見えなかった。
走って、走って、20分もしないうちにミナの家が見えてきた。
「は、はぁ…、はぁ、」
喉から血の味がして、汗が雨と一緒に頬から滑り落ちる。
恐る恐る手を取手にかけた。
どくり、と鳴る心臓は走ったせいだけじゃない。
ガチャリ、とその扉は開いた。




