音色を奏でるモノの怪 1
ここから段々と怖くなっていけたらいいなぁ…と考えております。
脱力感に苛まれたミナが溜息を吐くと、まるで測ったかのようなタイミングてポーン、と微かにピアノの音が聞こえてきた。
その音はおそらくだが、グランドピアノが置いてある音楽室から聞こえてくる。ポーン、ポーン、と一定の感覚でただ音だけが鳴る音楽室は二階の一番奥の部屋にある。
ポーン、とまたも聞こえてきた音にミナはぎゅっと眉を寄せた。
この音は自分を呼んでいる。
それをミナは確信していた。
最早、音楽室に居るのが生きている人間だなんて甘い考えはしていない。
律儀に行かなくてもいいのだが、行かなくてはいけないと思うのは、魂に刻み込まれたキャラクターとしての知識だ。
「(音楽室の怪談って、何があったっけ…。誰もいない音楽室でピアノの音が鳴る……のはさっきの音だとして……)」
音楽室に行くことはもう決定していた。
人間ではない何かに呼ばれていると分かっていても、いや、分かっているからこそ、ミナはできる限りの対策は立てておこうと道中で音楽室にまつわる怪談を思い出す。
「(あとは、肖像画の目が光ったり?他…は、なんかあったっけ?)」
しかしそれも一分も経たないうちに終わってしまった。そしてそのどれも対策の仕様がない怪談で、ミナはうーん、と頭を捻った。
いくら考えても対策の仕様のない怪談に、ミナは最終的に何が来てもとりあえず殴ってみればいいか…、と実に脳筋な答えを出した。
こんな考え方をするミナだが、彼女は至って普通の女子高校生である。
ただ、キャラクターとしての潜在意識が存在し、ホラーゲームキャラの性とでも言うべきか、並大抵のことでは怯まない鋼のような精神力を持っているだけの、普通の女の子なのである。
例え、何度も殺されたことへの恨みを晴らそうとバケモノ相手に拳を握ったとしても。
悲鳴をあげることなく怪異をスルーしてしまう豪胆さを垣間見せたとしても。
人間ではない何かがいる音楽室に今まさに単身で向かおうとも。
彼女は普通の十七歳の女の子なのである。