世界の怪 1
『さぁ、もう一度【初めから】を始めよう』
その言葉と共に足元が崩れ、私は闇の中に放り出された。
あーあ。これで終わりかぁ…。
落ちた時に感じたのは、そんな脱力した思いだった。
悔しさも恐怖も感じないのは、現実味がないからか、諦められたからなのか、それとも、これが死ではないと知っているからか。
ふと、落ちていく時に一冊のノートが目に入った。
数学のノートだ。恐らくぶちまけた鞄の中身も一緒に落ちたのだろう。
それが落下の衝撃でパラパラとページが捲れていた。
「これ…」
その中で一ページだけ、ぎっちりと書かれた箇所を見つけた。
手を伸ばして、それを手に取る。訳の分からない英単語や数字が所狭しに描き殴られている。
それでも、それが数式でないことくらいミナにも分かる。
「これって…」
この世界はゲームの世界だ。なら、この無秩序に見える記号の羅列が意味するものは─…。
今、この世界はきっと作り替えられている途中だなのだろう。真っ暗な世界は、【初めから】の舞台である学校へと作り変わる。
だけどまだ、書き換わっていない。
「……………」
ミナはプログラミングなんてまるっきり分からない。書き換えるなんてこともしたことが無い。そもそもミナはプロのハッカーとか天才少女とかではないのだ。普通の高校二年生の女の子なのだ。
それでもミナはこの世界の主人公だ。そしていつだって、世界は主人公の為にある。
「世界!!」
持っていたノートを上へと放り投げる。
「書き換えろ!!!」
それが正しく世界を書き換えるのか、そもそも書き直す為の記号なのか、そんなの分からない。
それでもミナはこれが世界を変えるものだと信じた。
何万何千と繰り返した世界の中で手に入れたこの手掛かりは、きっと、何万何千と繰り返したミナが残して、今この時まで繋いだものだ。
だからミナは信じた。自分ではない自分のことを。




