病院の怪17
世界side
「可哀想な世界」
その言葉を聞いた時、今までギリギリのところで保たれていた均衡が崩れたような気がした。
お前に何が分かるのだと叫び出したくて、衝動のままに動いて、彼女を殴りたくて、それでもそれを言ったところでもう何も出来ないし、殴りたくても私はこの鏡の外へとは出られない。
何故なら私は世界だから。言わば概念である。
今は鏡に写ったミナの姿をとって人型として動いて喋っているけれど、私は世界そのもの。
私は、この世界でありながら、この世界で自由に動けない。
「諦めてしまえば楽なのにね」
ミナが言う。
その一言に頭が沸騰しそうな程の怒りが我が身を包んだのが分かった。
そんな簡単に諦められるものならば、とうの昔に諦めている。
「中途半端な世界は可哀想」
あぁうるさいうるさいうるさいうるさい。
中途半端で何が悪い!中途半端なのだって、成りたくて成ったわけじゃない!
分かってる。これはかつて自分がミナに言った言葉だ。
そう。分かっているのだ。
諦められないのも、中途半端なのも、可哀想なのも、本当は全部自分の事だった。
でも、諦められなかったし、それ故にずっと中途半端で、馬鹿みたいに繰り返しては勝手に期待して失望した。
あぁ、でも。それももう終わりだ。
ミナが何を言っても、何をしても、もう終わりだ。
世界は崩れる自分のカラダと、新たに構築されていくものを感じながら目を閉じた。
『バットエンドだ』
病院の形は崩れ、真っ暗な空間にミナは投げ出され落ちていく。
『さぁ、もう一度【最初から】を始めよう』
今度のミナは、私を壊してくれるミナだといい。
願うのはいつだって一つだ。
────あぁ、早く…。
──────早く、終われ。
とても短い…。
病院の怪、了




