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病院の怪 15

彼女が消えて、ミナのいる空間が歪み出した。

ミナが現実の世界に帰るためにはこの病院から脱出しなければいけない。それをミナは分かっていた。


だからミナは駆けた。部屋を出て、元来た道を辿るように走って、走って、走って、やがて、エントランスまで来た。

チカチカと点滅を繰り返す蛍光灯。そして、向かう先はすぐ目先の出口ではなく、最初はユウが居て入れなかった受付の奥にミナは入った。


受付の奥にあるのは更衣室だ。

そこに何があるのか、ミナは知っていた。

大きな鏡があるのだ。看護師たちが身嗜みを整えるためだろう。全身を写すその鏡はゲームでは、『なんだ…。鏡に写った自分か…』という要素しかないただの鏡でしかなかった。


ミナはその鏡の前に仁王立ちで待ち構えた。


「居るんでしょう?」


確信を持った声だった。

それに応えるように、鏡の中のミナの姿が揺れた。


ミナが向かうのはハッピーエンドのその先だ。

ここで病院から脱出すれば、ミナはお母さんに会える。けど、お母さんに会えるだけだ。


私は、その先を生きたい。


だからミナは世界を壊さなければならない。


世界と話す方法はさっきの彼女を見て確信した。

世界とはルールであり、予め決められたレールの上を歩くようなものだ。そこから逸れるものを世界は許さない。

けれど、ミナはどう足掻いても世界のレールから逸れる術はない。目覚めた時から、生きることも、死ぬことですら、ミナは世界のレールの上だ。そして、今この病院から脱出した時、ミナに与えられるのは新しい生だ。

そんなものはもう要らない。


「『世界』」


『世界』とは『ミナ』自身のことだ。『世界』が『ミナ』の為にあるように、『主人公』も『世界』の為に必要不可欠な駒だ。


『やぁ、『主人公ミナ』。『私(世界)』に抗う覚悟は出来たかい?』


それはやはりミナの形をしているのにミナではなかった。


「私は『世界あなた』を壊してエンディングのその先を行く」


ミナの言葉にミナの姿をした世界は笑った。


『いいねぇ。私もね、ずっとずっとこの代わり映えのしない世界に飽き飽きとしていたんだ!けど、どうやって?鏡を割ったところで『私』は死なないよ?それはねぇ、ミナも知ってるでしょう?』


くすくすと自分が壊されるのに笑う世界はよっぽど壊されない自信があるのか、その笑みを絶やすことはない。


「そんなの知ってる。だけど、私は壊さなきゃいけない」

『どうやって?』


くすくすと、世界が笑う。

崩壊の音を聞きながら、ミナも同じように笑った。

それは勝利を確信しているような笑みだった。


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