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病院の怪 14

 ミナの手に触れるその瞬間、彼女は急に頭を抑えて苦しみ出した。


『ぁ、あぁ!あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


 バッと天を仰いだ彼女の目は見開き、口から漏れるものはまるで獣のような声だった。


『どうして!どうして!!どうして!!!』


 彼女は狂ったように喚いた。「どうして」とそればかりを繰り返し、何かを否定するように頭を横に振り、全身で嫌だと叫んでいた。


『どうして!!!どうして!!!どうして!!!わ、タシ、は!!いきたかったダケ、な、のに!!!』


 彼女は足元から崩れていった。緑の粒子が上に昇る。さらさらと彼女は緑の粒子となって消えていく。

 そして、天を見上げていた彼女は、やがて見開いていた目をミナに向けた。


『……ぁ、あぁ、』


 ほろほろと流れる涙も地面に落ちる前に緑の粒子となって消える。

 伸びる手がミナの手を掴んだ。


『た、タスけて、たスけて!おね、おねが、おねがい、ワタシ、』


 ──────死にたくない!


 彼女が叫ぶ。

ミナは掴まれた手を包み返した。


「そうだね。私も、死にたくないの」


 ゆるりと笑ったミナに彼女に対する感情は何も無かった。

 憐憫も、同情も、何も無かった。まるで硝子玉のような目は、彼女という消える存在をただ目に写しているだけだった。


「私も、お母さんに会いたいの」


─────だから、ごめんね?


 その言葉に彼女はまた目を見開いて、そして、その意味を理解して、怒号をあげた。


『ああああぁぁぁあああぁぁあああ!!!!騙したな!騙したな!!騙したな!!!!』


 その目は烈火のごとく燃え上がり、文字通り赤く染まった。

 しかし、もう顔しか残っていない彼女ではミナに手を出すことも出来ない。


「騙してないわ。私は仲間にならないかと誘っただけ。貴女を殺したのは、この世界でしょう?」

『殺ス!コロス!!殺しテ、やる!!ころっ…』


 ふっ…と消えた彼女は、ミナを恨んで消えていった。

 けれど、その記憶も消えた今となってはないだろう。新たに生まれるであろう彼女も、今のミナのことは忘れて、ただ世界に望まれるままにミナを殺すのだ。


「……死にたくないだなんて、まるで生きてるみたいなことを言うのね」


彼女の存在はミナにとって死者だ。けれど、この世界に望まれて生まれた彼女は、生まれた瞬間から死んでいる。生きていた時なんて本当は一秒も有りはしない。


「私、今初めて心の底からあなた達を可哀想だと思ったわ」


それでも、可哀想だと相手を憐れんだミナだって一つ設定が違えばそうなっていた。

ミナは他の怪異たちと違い、生きていると設定されて生まれたに過ぎない。たったそれだけ。主人公なんてそれの付加価値のステータスに過ぎない。

だから結局は、同じ穴の狢の癖にね。とミナは声に出さず自嘲の笑みを浮かべた。



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