病院の怪 12
これが最後の怪異だとミナは漠然と理解していた。
それ故に、早く帰りたいという焦りと、例え世界にそうあれと決められたこととはいえ、お前が全ての元凶かという怒りがミナから冷静な思考を奪い取っていた。
そう。ミナは冷静ではなかった。
ミナが掴んだのはベッドだった。凡そ100kgはあるベッドは成人した男性でも一人で持ち上げるのは難しいだろう。それでもミナはそれを持ち上げた。
「っせぇぇぇぇえええええ…!!」
『え…』
戸惑ったような声がどこからか聞こえてきた。
「ふんっぬぅぅううううっっ!!!」
ミナは気合いでベッドを持ち上げると、そのままベッドの重さに逆らうことなく腰を曲げた。
持っていたのが人ならジャーマンスープレックスといったところだろう。
ドゴッという鈍い音を立てて赤い壁が崩れた。
『ひぇっ』
恐らくホラーゲームの世界で色々な物を投げてきた主人公達もベッドを投げた経験はないだろう。
「あー腰痛っ。…………ん?何これ…。隠し通路?」
そして、本来なら部屋を散策することによって見つける筈の隠し通路をベッドを投げることで見つけるとは誰も思わないだろう。ここは普通に【このベッドは動かせるかも…。】【動かしますか。】みたいなテロップが入ってベッドを動かして見つける所である。
ミナはその通路を見つけるとニヤリと笑った。
「あはっ」
四階の床にある隠し通路が真下の階に繋がっているなど思っていない。
こんな変な場所にあるのだ。恐らくコレは怪異のいる場所に繋がっている。
「こんな分かりやすいとこに分かりやすいものを…、作る、なんっ、てぇっ!」
ミナは本来なら鍵が必要なその扉を腕力だけでバキョリッとこじ開けた。ネジがどこかに吹っ飛んだのが見えた。凄まじいショートカットである。
最早、普通の女子高生とは言い難いが、きっと世界が何らかの形でミナに力を授けたのだろう。あるいはこれがミナ本来の抑圧されない力か。真相は分からないが、今のミナはベッドを投げ、鍵の付いた扉をこじ開けることの出来る腕力を持っていることだけは確かだ。
「今、行くね…」
こじ開けた扉の中は階段があった。ひんやりとした空間は霊がいることによる霊障の一つであるとミナも理解していた。
それでもミナは躊躇なくその階段をゆっくりと降りる。
そこには一種の優雅ささえあった。そこに恐怖の面持ちなどない。余裕を持ち一段一段ゆっくりと、コツコツと足音を鳴らして階段を降りるミナの残虐性を含んだ微笑みを浮かべたその姿はまるで魔王のようであった。
いやだぁぁぁくるなぁぁぁぁ。という叫びが下から聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。
ミナとて、「許して下さい」と言われて「いいよ」と返せるほど大人では無いし、今更「ごめんなさい」と謝られて「いいよ」と返せるような稀有な人間ではないのだ。
「帰してってお願いしているうちに帰してくれれば良かったのにね…」
さぁ、怪異を殺して、世界を壊して、そして、ミナはハッピーエンドのその先へといくのだ!
ミナはまた、自由になるための一歩を踏み出した。




