病院の怪 1
ミナがトンネルを抜けると、さぁっと風が吹いてミナの髪を揺らした。
眩しさに閉じていた目を開けると、そこに広がっていたのはミナが思い描いていた町並みではなく、病院だった。
「“え…“」
異質なのはその外観だ。見た目は普通の病院のようだが、外に吊るされた赤と白の提灯がまるで祭りを連想させる。トンネルから見えた光はきっとこの提灯の灯りだろう。
病院の中も明るく、こちらを覗いているのか、窓の奥に黒い人影が見える。
「“なんでこんなところに病院が?“」
でも、良く考えればおかしかったのだ。夜のはずなのに明るい外なんて。けれど、もう戻れない。引き返せない。
「どうなってんだよ…」
最早乾いた笑みしか出てこない。
ドサッと音がして、ミナの体が崩れ落ちた。疲労と脱力感に苛まれて、最早立つことが億劫だった。
非現実的なことから全て目を背けて逃げてしまいたかった。これは全て夢で、起きたら母が「おはよう」と声をかけてくれるのだ。
それはなんて、なんて幸せな…。
あぁ、もう…。
体を丸めて鞄を強く抱きしめながら、ミナは落ちてくる瞼に逆らうことなく目を閉じた。
その暗闇は、ミナに一時の安寧を与えてくれた。
何も見たくない。考えたくない。起きたら、お母さんがいて、「おはよう」って言って、「どうしたの?」って、聞いて、それで…、それで…。
────────────「悪い夢でも、見ていたの?」
「おねぇちゃん、大丈夫?」
「っ!」
声を掛けられて飛び起きると、目の前に一人の子供がいた。その子は病院で着る白い入院服を着て、ミナを心配そうな顔で見つめていた。