トンネルの怪 2
──────うしろから、きてるよ…
その言葉を聞いた瞬間、ミナは右の道に勢いよく走り出した。
右の道に入ったことに理由はない。しかし、それはミナの魂に刻まれた正解の道だった。
ミナが右の道に入った瞬間にガキンッ!と何かがぶつかる音がした。
振り返ることはしない。ただひたすら、出口の見えない一本道を走った。
走って、走って、どこまでも続いているトンネルの中を走って、気付けば音は聞こえなくなっていた。諦めたのか、それとも音が届かない範囲にミナが来たのか、分からなかったけれど、そんなのはもうどうでも良かった。
「っ!はっ、は、」
ドッ、ドッと忙しくなく動く心臓を沈めようとするミナの息は荒い。
もしミナが左の道に入っていたら、後ろから来ているナニかに殺されていた。
あの時、『後ろから来ている』と声がした時、今まで全く聞こえなかった音が急にミナの真後ろから聞こえてきた。
それはまるで獣のように荒い呼吸で、今にもミナを喰い殺さんとばかりに生暖かい息がミナの首筋を掠めた。
あと一歩走り出すのが遅かったら、間違った道を進んでいたら、そう思うと恐怖で足が震えた。
ちなみに、ここは壁を調べながら進んでいればきちんと答えが用意されている問題だった。
壁には『左の道は魔の往く道、右の道には生者が通る』と書かれている。
生者の道を通ったミナは、無事にナニかに捕まることなく息を切らしながらも光の射す方へと目指すことが出来た。
「はぁ、はぁ…」
疲れと恐怖から来る足の震えを叱咤しながら、足を止めることなく前に進める。
「……そういえば、」
……あの声は結局、なんだったのだろうか。
どこかで聞いたことがあるような気もするが、思い出せない。
「どうせなら右か左かで言ってくれればいいのに。こっちってどっちだよ…」
まぁ、その道が正解の道かどうかは分からないけれども。
軽口を叩ける余裕が生まれたのは目の前にゴールと思わしき光が見えるからだろう。
ミナはトンネルを抜けるために駆け出した。
その先にあるものが希望だと信じて疑わない迷いない足取りで、ミナは駆けた。
─────そのまま真っ直ぐ進むんだ。
風に乗って聞こえた声がどこかミナを後押しするようだった。
そして、ミナの姿はトンネルから消えた。
────────絶望への道のりを…。
影が、ゆらりと揺れた。
影の怪 了




