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揺れる人影の怪 5


 ふっと意識が浮上した。

 ぼんやりとした頭で周囲を見渡し、ここが体育館であることに気付いた。

 そして、何があったか瞬時に思い出したミナは咄嗟に首を抑えて起き上がる。


「っ!」


 しかし、ミナは首を締められて気絶していたのだ。酸素不足か貧血か、素人には判断できなかったが、急に起き上がった為、くらりと目眩がした。


 数分頭に手を置く形で、しかし警戒心は解くことなく目眩が収まるまで待った。


 目眩が収まると、ふと、ミナは自分の手が何かを握っていたことに気がついた。

 それは何かのナンバープレートだった。

 『404号室|****』と名前のところは掠れていて全く読めない。


「…………終わったのか」


 もう一度冷静になった頭で体育館を見渡すと、そこにはミナ以外何もいなかった。

 いつの間にか持っていたプレートに何もない体育館。そこから導き出した結論だった。


 ミナは落ちていた鞄を拾ってプレートを入れると、体育館を後にした。


 気になることは幾つかあった。

 消えた女学生に、その女学生が口にした「存在意義」という言葉。ミナは、この世界がゲームであるなんて信じていない。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、信じたくないからだ。

 けれど、『ミナを殺すことが存在意義』だと唱えた彼女は、その為だけに生まれたような口ぶりで、そして、それはきっと、正解なのだろう。

 鏡曰く、ミナはこの世界の主人公だ。狙われる理由なんて、きっとそれだけで、それだけの為に彼女は生まれた。そして、あの鏡の言った言葉が真実であれば、私も彼女と変わらない。そうであれと生まれた生き物ということになる。


 哀れだと思う。


 だからこそミナは自分がゲームの世界の人間だと認めたくないのだ。

 ミナが家に帰りたいのも、お母さんに会いたいのも、全て自分の意思だと思わなければ足元が崩れていきそうになる。


「(大丈夫。大丈夫…)」


 心の中で何度も唱える。殺されかけたことに対して震える手や足をミナは知らないふりをして動かした。


「(大丈夫。大丈夫。大丈夫…)」


 体育館を出て真っ先に昇降口まで向かう。

 きっともう鍵はかかっていないから。


「(大丈夫。大丈夫。私は、大丈夫)」


 ──────『ほんとうにぃ?』


 靴を履き替えて、扉に手をかけた時だった。

 声が聞こえた気がした。


「(大丈夫。私は……、)」


 ミナが扉を開けて、一歩外へ出る。

 あれだけ頑なに開かなかった扉がこうも簡単に開くと軽い殺意が芽生えるが、ミナはそれを抑えて外に出た。


 空はまだ茜色だ。


「“早く帰ろう…“」


 出てきた言葉は無意識でミナ自身気付いていない。


 昇降口を出て、校門を目指す。

 いつだってなんてことないように通ってきた道だ。

 それでも、何故だろう。あんなに早く帰りたいと願っていたのに、この校門の先へ出るのか怖い、だなんて。


「大丈夫。何があってもぶっ飛ばせばいいだけ。問題ない。大丈夫」


 そしてミナは、新たな決意とともに校門の先へと踏み出した。

 


体育館の首吊り幽霊の怪 終

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