下半身のない女学生の怪 1
目を開けると、そこにあったのは見慣れた、しかしどこか懐かしいと感じる教室の風景だった。
何だか、とてもスッキリとした気持ちだ。
妙に冴え切った視界で私は窓側の一番後ろの席に座って夕暮れ時の空を見上げた。
︎︎そして次に誰もいない教室へと目を向けた。
静まり返った教室に人の気配はない。けれど、机の横にかけられた鞄や開きっぱなしの教科書、誰かと雑談していたのであろう椅子の向き、書きかけの黒板から、ここには確かに人がいたのだろうことが分かった。
さて、私はいつからここに居たのだろうか。
自分がさっきまで眠っていたことは分かる。
けれど眠る前の記憶が全くない。一切思い出せないのだ。
いつ眠ったのか。今まで何をしていたのか。クラスメイトや友人、先生の名前は覚えていても友人との会話などは一切覚えていなかった。友人がいたことは覚えているのに、何を話していたとか、どんな繋がりで仲良くなったのか、そんなことを一切覚えていないのには疑問よりも先に気味の悪さを感じてしまう。
それでも、目覚めた私は何故か『家に帰らなければいけない』という思いを強く持っていた。
何か用事でもあっただろうか?と考えるも答えは出ない。
何も思い出せないまま、とりあえず何か手掛かりになりそうなものを求めて私は自分の机の引き出しを開けようとした。
立て付けが悪いのか最初は何かが引っかかったように動かなかったが、ガンガンと何度も引き出す動作を続けていれば、やがてバキッと何かが壊れる音がして何とか引き出すことに成功したのだ。中を覗けば定規が引っかかっていたのだろう。真っ二つになった定規が入っていた。
私は他にも入っていた物を取り出して机の上に並べてみた。数学の教科書と同じく数学と書かれた一冊のノート、そして筆箱という学生の必需品が並ぶ。
筆箱の中身はシャーペンが1本に消しゴムが一つと名前ペン、そしてカッターナイフが一つ入っていた。真っ二つになってしまった定規も元はこの筆箱の中の物だろう。後で捨てようと筆箱の中に定規を仕舞う。
ノートには私の字で『数学』『2年B組』『更科ミナ』と書かれている。
「“あぁ、そうだ…“」
今日は数学の宿題が出たんだった。数学の山下先生はとても怖い先生だから、忘れて帰っていたら取りに戻らなければいけないところだった。それくらい怖い先生なのだ。
ノートと教科書、そして筆箱を鞄の中に入れて立ち上がる。
「“早く帰らなきゃ…“」
私は夕暮れで紅い空を見上げて呟いた。
ミナの持ち物に『名前ペン』を追加しました。(2019/07/16)