表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/53

音色を奏でるモノの怪 12

 音楽室の前まで行くと、ミナは鞄から保健室の薬品棚から持ち出したある物を取り出した。

 そして、それを持って意を決して音楽室の扉を開けた。


 ぴちゃん…。と何かが落ちる音がする。

 ぽーん、と無意味な音が鳴る。

 

 噎せ返るような血臭が鼻をつき、赤が視界いっぱいに広がった。


「持ってきたよ」


 しかしミナは、初めてこの音楽室に入った時とは違い、しっかりとした足取りで血に染った床を歩いた。

 そして、赤く汚れた上靴をものともせずにグランドピアノの前まで行くと、男の子の前にそれを差し出した。


「ほら。君が取られたものだよ」


 ミナが差し出したのはホルマリン漬けにされた二つの目玉だった。


 ミナの言葉にバッと顔を上げた男の子の顔は血塗れで、本来あるはずの目は空洞だった。その目がミナの視線と合うことはない。

 

 歪に血にまみれた手がミナからホルマリン漬けされた目玉の入った瓶を奪う。


 手探りで、けれど確実に二つの目玉を捕らえた彼は、それをモタモタとした動きで自らの空洞の目にはめ込んだ。


 そう。これはただ楽譜を見つけて渡すだけではクリア出来なかった。

 本来のゲームでは楽譜を全て見つけた後、男の子に楽譜を渡す。そこで初めて男の子が隠されたものが楽譜ではなく目玉だと知ることが出来る。そして、今度は隠された目玉を探すゲームが始まるのだ。


 ミナは薬品棚を覗いた時にホルマリン漬けにされた目玉を見つけ、それを持って出た。

 キャラクターとしての魂がそれを持って行けとミナを突き動かしたのだ。


「そしてこっちが、君が無くした月光の楽譜」


 初めて男の子と視線が合う。


 男の子から流れていた血はやがてさらさらと消え去った。

 あの酷い血臭もいつの間にかなくなっていた。音楽室はまるで何事もなかったかのようにミナの記憶にある綺麗な音楽室に戻っていた。


「ありがとう」


 そう言って笑った男の子は、先程までのおぞましい姿とは打って変わって普通のどこにでもいる学生の姿をしていた。

 きっとその姿が、彼の生前の姿だったのだろう。


 彼はとても綺麗な手をしていた。

 そして、三枚の楽譜を広げると繊細な手つきで月光の曲を奏で始めた。


 やがて、音を奏でながら彼はあの肉塊の時と同じように緑の粒子となって消えた。


 彼の居なくなったピアノを眺めていると、ふとグランドピアノの響板に手帳のようなものが落ちているのを見つけた。


 何とかそれを手に取ると、それはミナの生徒手帳だった。


「(何でこんなところに…)」


 手帳の中にはミナの顔写真と名前、所属するクラスに生年月日が書かれていた。


「(生年月日……。私の誕生日。どうして、忘れていたんだろう…)」


 ミナは鞄からスマートフォンを取り出すと暗証番号を入力した。『0602』と打ったそれはセキュリティを解除してホーム画面へと変わった。


音楽室の幽霊の怪、終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ