音色を奏でるモノの怪 11
六本の指のない腕から察するに、きっと彼らは卒業アルバムに挟まれていた新聞にあった三人の高校生達だろう。
助けて。とそれだけしか知らないみたいに繰り返して、伸ばす腕も掴み取る手もないのに必死に蠢き助けを求める姿をミナは憐れだと思った。
それは生きている者の傲慢なエゴで、偽善で、酷く上からの目線で語られる憐憫だ。
「可哀想だね」
この三人が死んだ理由も、この三人が選ばれた理由も、こう成った理由も、ミナは知らない。
そしてきっと、それは知らなくても問題のないことなんだろう。
ミナは持っていたアルコールランプの蓋を外し、肉塊へとふりかけた。
「今、楽にしてあげるよ」
蠢くだけで逃げようともしないその肉塊を無表情に眺めて、ミナは持っていたマッチに火をつけた。
先端で揺れる赤い炎がミナの目に焼き付く。
ミナは知らない。
これで本当に楽になれるのか。これで蠢く肉塊である彼らを本当に救えるのか。
けれど、一般的に人とは死んだら火葬されるものだ。
だから燃やす。
ミナは持っていたマッチを肉塊へ向けて軽い動作で放った。
『ィアァァァァァァァァァァァ!!!!!』
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アヅィあづィアアアァァァ!!!!!!!!!』
『だづェテァウぇぇ!!!!!!!!!』
着火した瞬間、空気を震わす程の音量で叫ばれたそれにミナは不愉快だと言わんばかりに眉を寄せて耳を塞ぐ。けれど、その目は燃えていく肉塊から目を離すことはなかった。
バタバタと六本の腕を何かを求めるように伸ばしながら、『熱い』と『助けて』を繰り返す彼らに、ミナは笑うことも泣くこともなく、ただ黙って見続けていた。
やがて彼らは苦悶の声を上げながら身を燃やす炎と共に緑の粒子となって消えた。
一緒に消えなかった僅かに残った燃えカスのような火は、ペットボトルに汲んでいた水で完全に鎮火させた。
そして、焦げ跡の残るベットの上には、まるで何もなかったかのような状態の綺麗な楽譜が一枚残されていた。
ミナはそれを拾い上げると直ぐに鞄の中へと入れた。
そして薬品棚から包帯や消毒液などの必要だと思うものも鞄に入れる。その中で、本来なら薬品棚あるはずの無いものを見つけて、それも鞄の中に入れた。硝子の中に入れられたそれと目が合ったような気がしたが、ミナは落とさないように鞄のチャックを閉め、保健室を後にした。
終わりは見えている。
後はこれを持って音楽室へと向かうだけだ。