音色を奏でるモノの怪 10
グロ注意
カーテンを開けた先にあったものは、肉塊だった。
無理やり重ね合わせたようなそれは、酷く醜く、残酷な形をしていた。
ぐちゃりと、意思があるのか不規則に動くその塊は無理やり動かしているのか、動く度に至る所から血を流していた。
「…………………………」
酷い腐臭と血臭を撒き散らしながら、その肉塊は蠢く。
『ァ、…………ァゥ、』
声を上げるたびにもぞもぞと肉塊を蠢かせて、血を滴らせるその姿を、ミナは悲鳴を上げることなく見ていた。
人間は本当に恐ろしいものを見ると逆に冷静になれる生き物なのかもしれない。
ミナは自分の状況を冷静にそう判断した。
『ァ、ェ……、ァゥ……ェ、』
動く度に肉片が落ちようとも、例えその中に目玉のようなものがあろうとも、指のようなものが混じっていようとも、ミナは冷静にその姿を見ていた。
いっそ正気を失えた方が楽だったかもしれない。
ミナは正気を保ったまま、それが何なのかを見極めるかのように、ただじっと、その姿を見ていた。
その肉塊は確かに人であった。しかも、蠢いていることから、きっとまだ生きている。
『ァゥ、ェ、……ゥケェ、……ァ、』
何重にも重なって不協和音のように聞き取りずらかった声は、ずっと聞いていたからか、ようやく一つの言葉として聞こえるようになった。
『ァ、ズゥ、ゲ……ェ』
助けて。とその言葉と共に蠢くその肉塊は、きっと手を伸ばしたいのだろう。しかし、六本の腕が複雑に絡まり、お互いがお互いの邪魔をして上手く伸ばすことが出来ないのだろう。
それでも、伸ばされた所で、ミナはその手を掴むことなど出来ない。
それは、精神的にもそうだが、物理的にも無理だった。
蠢く六本の腕の先、あるはずの指が、どの手にも付いていなかったのだ。