音色を奏でるモノの怪 8
結果だけ言うと、理科室にお目当ての物は何も無かった。
しかし、机の中からマッチを見つけたミナはこれは使えると判断し、棚に閉まってあったアルコールランプと共に理科室から持ち出した。
確実に何かを燃やすために拝借したラインナップである。
ミナは重くなって行くカバンを背負い直して理科室を出た。
三階も見終わって、残すは一階だ。
一階には一年生の教室と保健室、そして体育館がある。
正直、ここから一階に降りてまた二階に上がるのは面倒くさい。それに保健室にも体育館にも絶対に何かありそうな気がするのだ。
「(でも、保健室は開けておくべきかな…。消毒液とか包帯とか、持っておいて損は無いと思うし…)」
自分を納得させてからミナは自分の疲労は考えないようにして一階へと降りていった。
「学校にエレベーターとかエスカレーターがあれば良いのに」
階段を降りながら呟くものの、それに応える声はない。
「“そう言えばここって…“」
階段の踊り場に出た時に、ふとミナは友人が話していた怪談を思い出した。
横を見ると、そこには怪談の話の元となっている大きな鏡が飾ってある。
【踊り場の鏡】
夜中にこの鏡の前に立つと、鏡の中に引きずりこまれる。引きずり込むのは鏡に映った自分、又は昔この鏡の前で死んだ学生の霊など諸説ある。
学校の七不思議としてポピュラーな怪談の一つである。
ミナがじっと鏡を見つめていると、ゆらり…と鏡の中の自分の姿が揺れた気がした。
「“?気のせい、かな“」
数回瞬きをして鏡を見るも、鏡に映るミナに不審な動きはない。
「(出る杭は出る前に打て、が今の私の信条だけど、ここで壊すと破片が邪魔になるな)」
そう判断したミナはさっさと鏡から視線を外すと下へと降りていった。
この判断を、ミナは後々後悔することとなる。