音色を奏でるモノの怪 7
図書室を出たミナは少し離れてはいるが隣にある理科室へと足を運んだ。
理科室に入ると早々にカタッと小さな音が鳴った。音がしたであろう方を向くと、そこにあったのは人体模型だった。
それを見た瞬間、ミナの頭で何かの映像が流れた気がした。それは一瞬のことでミナ自身もなんの映像なのかはっきりしなかったが、それでも一つだけ分かることがあった。
「(分かる…。分かるわ…。)」
最早何キャラなのか自分でも分からなかったが、ミナは確信を持った口調で脳内で言葉を続けた。
「(こいつは動く。絶対に動く。そして私を追いかけてくる。そうに決まってる)」
事実その通りであった。この理科室内で人体模型に背中向けると徐々に近づいてくるのだ。そして理科室から出ると扉を粉砕する勢いで飛び出してきてミナを追いかけてくるのだ。ゲームではロッカーに隠れたり教室に入って人体模型の視界から消えることによって回避する。
ミナの魂は覚えている。間に合ったと思ったその瞬間、ロッカーの扉は乱暴に開けられ、腕が千切れるかと思うくらいの強さでロッカーの中から引きずり出されたあの恐怖を。
そして、最期に見たあの人体模型もおぞましい顔も、締められた首の痛さも、息のできない苦しさも、ミナの魂は覚えている。
「(執拗に追いかけてコイツは私を殺しにくる。)」
ミナは鞄の中からハンマーを取り出した。
ハンマーを握るミナの手は震えている。
「(そうなる前に…)」
それは恐怖故の震えではない。
「壊す」
副音声で『殺す』と聞こえたのは気の所為ではないだろう。
人体模型も心做しか後ろに引いたように見える。
出る杭は出る前に潰す。これが今のミナのモットーである。
手足をもぎ取り、視界を潰すかのように顔部分を殴打し、万が一がないように砕いた手足を執拗にさらに細かく砕く。
「私は生きて帰る。だから…」
ころりと落ちた無機質な目玉がミナを見上げる。
「邪魔をするな」
それを足で踏み潰したミナは、何かに対して威嚇するような、懇願するような、そんな響きを持って言葉を吐き出した。