音色を奏でるモノの怪 6
紅に照らされた廊下をミナは歩く。
目指すは視聴覚室の近くにある図書室だ。
鍵を開けて中に入ると少しだけ埃臭い匂いがした。窓から差し込む紅い光が薄暗くも図書室を照らしている。
ミナはまず図書室に設置してあるパソコンを起動させた。
ネットが繋がるかどうか知りたかったのだ。
結果、パソコンの電源は付いたが、インターネットを開こうとしても、『繧、繝ウ繧ソ繝シ繝阪ャ繝医↓謗・邯壼?譚・縺セ縺帙s縲』という文字化けした画面が表示されるだけで、インターネットを使うことが出来なかった。
「使えないな…」
その一言は現状を嘆く言葉ではなく、言葉通り使えない物に対する心の底から「無いわー」とでも言い出しそうな物言いであった。
ブチッと正しい手順を踏まずにパソコンの電源を落としたミナはついでにとばかりにコンセントもやや乱暴な手つきで引き抜いた。
ミナは覚えていないが、実はゲームではこのパソコンを付けたままにしておくと無数の手が出てきてミナをパソコンの中へと引きずり込むのである。
なので本来は電源さえ切っていればコンセントまで抜く必要は無いのだが、コンセントを抜いたのはミナの無意識の自衛行為だろう。
パソコンの電源を完全に落としてから、ミナは何かないかと図書室の中を調べ始める。
無闇矢鱈に探しては時間の無駄だと思ったミナは、とりあえず音楽関係の本が並ぶ所から探し始めた。
適当に惹かれた本をパラパラと捲っていると、『月光の曲について』と書いてあるページがミナの目に止まった。
簡単に要約すると、盲目の少女が弾くピアノに感動したベートーヴェンがその家に上がり即興で演奏を行った。その曲を清書したのが「月光の曲」である。
しかし、これは所詮創作の物語である。
「楽譜はないな…」
大まかにではあるが数冊の本を確認したミナはここには無いと確信する。
実はその確信もプレイヤーによって何度も探索したが故の体に染み付いた記憶なのだが、当然ミナはそんなこと覚えていない。
なので、何となくここには無い気がする。けれどここは探しておかないといけない。という自分でも分からない感覚で今のミナは動いているのだ。
実際、ミナ自身は気付いていないが、彼女はこれまでの探索において無駄なルートや探索は一切していない。実に最短ルートで楽譜を集めているのだが、それを知る人は誰もいない。