協力関係
「次は我...か。しかし貴様の魔力はカスほどしか残っておらぬだろう?そんな状態で我を倒すことが出来るのか?」
少女は自信満々に言う。
確かにそうだ。死にかけのオッサンが勝てるほど相手は弱くない。
「そんなもん毛頭思ってない。だから取引をしよう」
「取引?」
オウム返しに聞き直す少女にあぁ、と小さく頷く。
「おまえ、ここに封印されているって言っていたよな?だからここから出してやる」
「...........無理だ。そんなこと数百年ここで生きてきたが不可能だった」
「それは今まで1人だったからだろう?今はおまえを含めて3人いる。やってみる価値は十分にある」
俺の提案に少女は少し考える素振りを見せる。
「仮に成功したとしよう。そのあとはどうする?さすがの貴様も我を自由にするという野暮なことはしないだろう?」
「そのときは俺が今後おまえと一緒に行動して何かしないように見張っていくつもりだ」
「........それを振り切ったら?」
「全力で止めてやる」
少し沈黙した後、少女は腹を括ったように強く首を縦に振る。
「その話乗った。成功しようがしまいが我にメリットは十分にある」
「そういうことだ。成功したらおまえは自由の身に。失敗したら好きにしたらいい」
「どうして貴様は自分にメリットのない提案を?」
「やっぱり平和に解決したいだろう?誰だって怪我をするのは嫌だし、ましてさせるのはもっと嫌だろ?」
「その気持ち、我には分からないがな」
「おまえもそのうち分かるようになる。とりあえずは今は停戦だ。レイの意識が回復したら話してみる」
まずは身体を休めて少しでも魔力を回復させたい。もう立っているのが不思議なくらいだ。気が抜けた俺はその場に座り込む。
しばらくして、レイが意識を取り戻した。
どうやら操られたときの記憶はあるようで目を覚まして開口、謝罪の嵐だった。
「ほんとうにすみませんでしたッ!こんな怪我までさせてしまって......」
ほぼ土下座に近い状態で謝られた。金髪美少女に土下座させているという謎の罪悪感がある。
そして、レイは俺の傷口に手を近付けるとそこから淡い光が灯り、傷口が塞がる。
「おい、回復魔法使えるじゃないか」
俺が驚きに目を丸くしていると照れたようにはにかんだ。
「出来そうだったんですけどやってみたら本当に出来ました。でも、塞ぐだけみたいなんで血とかは生成されないようです」
でも、これで出血する心配がなくなるのは大きい。
もしかしたら反回復の魔法を使ったおかげでレイの回復の才が開花したのかもしれない。
「それでレイ、いきなりで悪んだが話がある」
「?」
治療を続けているレイに気絶していたときに起こったことを話した。
封印を解く代わりに俺たちに協力すること。
成功したら俺と一緒にいること。
一通り、話終えると心配そうに俺の顔を見つめて口を開いた。
「仁さんが決めたことなので私が口を挟むことはないです」
「それはダメだ。レイにも協力してもらうからレイの合意がないと進められない」
「私としては何が起きるか分からないことなのでやって欲しくないのが1番ですけど、仁さんがやると言うなら私も尽力します」
それに、とレイが続ける。
「何百年もここにいた彼女を救いたいっていうのもあります」
その言葉を聞いた少女は信じられないような表情をする。
「なぜだ...。我は貴様を使い非道なことをした。それなのに...」
「私も分かりません。ただ、あなたに操られたとき孤独を感じました。あんなものに囚われるのは可哀想だと思います」
それは俺にも分かっていた。少女の目の奥にはどこか『孤独』が潜んでいた。
何百年という途方もない時間を1人で経験した少女の『孤独』は軽く同情するものではない。
「やはり理解できぬ...」
困ったように小さく息を吐く。
「さあ、早速本題だが他人の封印魔法を解くということは出来るのか?」
「我も以前に調べたが、そのときにはほぼ不可能に近いと言われていた。しかもこの封印を施した勇者は複雑に組んでおる。〝正しく〟に解くとなったら時間がいくらあったも足りぬ」
「〝正しく〟っていうことは正しくない方法もあるのか?」
「うむ。力で無理やり内側からこじ開ける方法だ。いわばこの部屋は蓋の閉まっている箱で中の物が箱の容量を超えれば箱は崩壊する」
なるほど、この封印の許容量以上の魔法をぶつければ壊れるわけだな。
「よし、やってみるか。とは言っても生憎魔力はスッカラカンだしな...魔力って何日で元通りになるんだ?」
「個人差もありますけど、大体1日くらいで元通りになるそうです」
「1日か...」
そんな余裕はない。しかし、待たなければ魔法を放てない。こりゃ積みだな。
頭を抱えていると少女が口を出す。
「さっき貴様から奪った魔力が残っている。元々はおぬしの魔力だった故、戻しても問題なかろう」
「他人の魔力だったら何か問題あるのか?」
「魔力にも相性があって、相性が悪い魔力が1つの体にあると反発し合って最悪の場合死ぬことがあるんです」
拒絶反応みたいなものか。
「おぬし、全然魔法のこと理解しておらぬな...」
呆れたように少女が首を振る。
「うるせ!この世界に来て1日も経ってないんだよ!」
よく考えれば1日経たずで何度も死にかけている。この先大丈夫か?
「それで、魔力を戻すにはどうしたらいいんだ?」
「簡単なことだ。おぬし、ちょっとこっちへ来てくれぬか?」
手招きされ、俺は少女のほうへ足を運ぶ。
そしてしゃがむように言われ少女と顔の位置が同じになるくらいまでになる。
すると、少女が俺の後頭部を掴み強引に引き寄せられる。
ーー温かい、ふにゃっとしたものが触れる。
理解するのに数秒の時間を要した。
そう、キスをしたのだ。
ファーストキスだ。
レモンの味かどうかは分からなかったが生まれて初めて異性とキスをした。(小さい時のやつはノーカンで)
「ちょ、ちょっと!仁さん!何しているんですか!?」
レイが頬を少し赤らめて聞いてくる。
「い、いや。俺も分からなかった...」
「魔力の譲渡にはこれが1番手っ取り早いのだ。どうした?おぬしの歳だったらこれくらいのことはしたことがあろう?」
グサリ。
悪意のない言葉が俺を傷付ける。
ガクッと肩を落としていると察したのか少女が俺の肩に手を置く。
「おぬしも辛かったんだな」
「分かってくれるのか......ッ!」
突然心が痛くなり、目からは涙が溢れる。袖で拭いながら何度も頷く。
「ちょっとそこの2人!なんで急に仲良くなっているんですか!魔力のほうはどうなったんですか!?」
あぁ、思い出した。確かに先程とは比較にならないほど元気になった。
「これならいけそうだな」
「魔法陣はこの地面に描かれている。壊す時は核である魔法陣を攻撃するのが先決だ」
よく見ると地面にうっすらと魔法陣のようなものが見える。
俺は地面に手を触れ、魔力を流し込む。
全身全霊、全力で。
純粋な透明な魔力が魔法陣に流れ込み、空間全体が揺れる。
「我がやったときはここまではいかなかった。おぬしは一体...」
揺れる部屋を見回しながら少女は呟く。
「うぉぉぉおおおおおおおッ!!!!」
さらに力を込める。
より一層大きく部屋が音を立てて揺れる。
あと少しだ。
「もっていけぇぇぇぇえええええ!!!」
一滴も残らないほど魔力を注ぎ込んだ。
魔力が無くなった時独特の脱力感に襲われ、膝を崩す。
ーーーー結果は。
30歳で初キスを果たした仁くんでした。
そのうち童貞卒業するのも近いかも!?
そうなったら大人しくノクターンいきます