表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

ギガンテス

「エナさんって勇者なんですね!」


レイが驚いた口調で言う。歩き初めて10分ほどが経って会話の主導権はレイとエナが握っていた。俺は相槌をするだけの存在に成り下がっている。


「勇者っていうけどそんなに凄くないよ。世界中に散らばっている先祖が遺した遺産を回収するだけの地味な仕事だよ」


話を整理するとこうだ。

数百年前に魔物との戦いに終止符を打ったのがエナの先祖でそのときの武器や魔法具が世界中にあるからそれを回収するのが勇者の末裔であるエナの仕事らしい。

魔法具たちはそれ単体で国を崩壊まで導くらしいから早く回収しないとダメということ。


「でも、あの魔法を見たら凄いとしかいいようがないですよ〜」

「そうかな? そう言われると悪い気はしないかな」


えへへ、と照れたようにはにかむエナ。

たしかにあの魔法は凄いの一言だった。


ドンッ!!ドンッ!!


一定のリズムで"何か"がこちらに向かってくるような音がした。音がする度に森全体が揺れるような感じだ。木々が揺れ、鳥たちが危険を察知して飛び立つ。

エナも警戒するように腰に収めている剣に手をやる。

音がする方向は俺たちが向かっている方角だ。

暗闇から姿を現したのは体長5〜6メートルの巨人だった。ゴリラをそのまま巨大化されたような風貌で、ゴリラと違う点は二足歩行ということだ。頭には1本の白い角が生えており、手には棍棒のようなものが握られていた。その目は俺たちに対する敵対の意味を含んでいた。


「ギガンテス!? いつも森の奥でいるモンスターがなんでこんなところに!?」


エナの口調からするとかなりヤバいモンスターのようだ。

いや、見た目でもヤバいってのは分かるが。

ギガンテスと呼ばれたモンスターは威嚇で棍棒を地面に思い切り叩きつける。

叩きつけた地面は深く抉られ、その威力を証明する。


「エナ! どうするんだ!?」


エナに指示を仰ぐと少し考えたあとに、


「日没までそんなに時間がないはず! 日が完全に暮れたら今よりも危なくなるから倒すしかないわ!」


といって鞘から剣を抜刀する。


「迸れ。我が雷を纏う剣となれーー纏雷」


重く低い声でエナが呪文を詠唱する。

刹那、エナの構えていた剣が高密度、高電圧の魔法を纏い刀身が2倍ほどにまで大きくなる。

そして、腰を落とし剣を構える。


「一閃」


その言葉が俺の耳に届く頃にはエナはギガンテスの向こう側にいた。次の瞬間、ギガンテスは膝から崩れ落ちて四つん這いになる。


「すごい.......」


不意にレイがそんな言葉を口にする。

スライムを倒した魔法も凄いがこの魔法はそれ以上だ。

しかし、まだ仕留めきれておらずギガンテスは棍棒を支えにして立ち上がろうとする。

武器である棍棒が封じられている今しか仕留められる隙はない。


「二閃!」


素早く踵を返したエナが今度はギガンテスのうなじを目掛けて剣を突き刺す。


「ぐぉぉぉおおおおおおおお!!!」


ギガンテスの悲痛の叫びが森に木霊する。

紫色の鮮血が地面を彩る。

再びギガンテスはバランスを崩し地面に倒れ込む。そしてピクリとも動かなくなりエナは安堵の息を漏らす。

ギガンテスから剣を抜き刀身に付いた血を飛ばし鞘に収める。


「でも、どうしてギガンテスがこんなところに...」

「本来はこんなところにいないのか?」

「もっと奥に縄張りを持っているんだけど...」


ピクッ。

ギガンテスの指先が微かながら動いた気がする。

レイもそれに気付いたのか顔色を変えてエナに声を掛ける。


「エナさん、まだ生きていますッ!」


ギガンテスの身体から禍々しい黒いオーラが漂っている。明らかに様子がおかしい。

よく見ればエナが付けた傷も完全に塞がっていた。


「お、おい! あれはなんだ?」

「噂だけどごく稀に変異種っていう魔力が桁外れに増えるモンスターがいるって聞いたことがある! もしかしたら...」


もう一度剣を抜き纏雷を展開し機動力を奪うため足元を攻撃する。

しかし。

鋼鉄のような硬さをしておりカキンッと乾いた音だけが響く。


「だめ! 魔力で皮膚が硬化しているみたい!」


素早く後退してギガンテスとの距離を置く。ギガンテスの顔は憤怒の念に染まっており正気など微塵ほども感じられない。


「一旦隠れて作戦を練るよ! 光雷!」


ギガンテスの眼前だけ眩い光が発生して視界を奪った。唸り声を上げて両目を押さえているギガンテスを確認したあとエナが駆け出し俺達もそれに付いていく。

離れた茂みに隠れ息を殺して作戦会議を開く。


「どうやら倒さないと先には進めないみたい。あたしの纏雷でも傷付けることすら出来なかった。そこで仁くんの水魔法を試そうと思うの。あれだけの水魔法を一点に集中させたらさすがのギガンテスの身体も切ることが出来ると思う」

「でもまだ上手くいくか分からないぞ? そんな博打みたいなことやっていいのか?俺が失敗したらあんた死ぬんだぞ!?」


スライム相手に試そうとしたがそれは出来なかった。だからこそ不安なのだ。自分の失敗がここにいる全員の死を意味している。


「どっちにしろ、あたしの魔力はもう空っぽに近いわ。望みの綱は仁くんだけ」


曇のない瞳で、疑いを知らない瞳で俺を捉える。俺よりも年下の少女が覚悟を決めているんだ。俺に命を預けてくれているんだ。それなのに当事者の俺がこんな調子だと成功するものも失敗してしまう。


「死んでも恨むなよ......」

「そのときはあの世で仲良くしましょう」


そういって彼女は笑った。


ドスンッ!ドスンッ!


ギガンテスの足音が近付いてきた。あいつ、変異種で嗅覚まで進化しているようだ。


「レイちゃんはここで待機していて」

「...............はい」


なんだか元気の無いレイの声に疑問を覚えたが、この状況ならば元気が無いのも頷ける。俺は自己完結させて茂みから飛び出る。


「まずはあたしがありったけの魔法で拘束する! そこから仁くんの全身全霊の魔法をぶつけて!」

「了解っ!」


前方にエナ。その後ろに俺が陣取る。


「縛せよ。我が雷は鎖となる。縛雷!」


ギガンテスの胴体目掛けて拘束魔法が放たれる。見事に命中し、当たった箇所から雷性の鎖がギガンテスを縛る。

ギガンテスは鎖を引きちぎろうとじたばたするがエナの全力はそう簡単に外すことはできない。

あとは俺だけだ。

意識を集中させ、右手の人差し指をギガンテスの心臓に向ける。

これならイメージがしやすい。

銃弾のように。速く鋭い攻撃を。

全身全霊の力を指先に込める。


「いっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!!!!!」


ズドンッ!という轟音が響く。

その途端に全身から力が抜け、その場に膝をつく。大きく肩で息をして呼吸を整える。

ギガンテスは直立して動かなかった。しばらくして糸が切れた人形のように重力に従い倒れる。

俺の魔法が当たったと見られる場所にはぽっかりと5センチほどの穴が空いていた。


「今度こそやったみたいだね...」


ようやく倒したという実感が湧いてきて言葉にし難い感情が溢れ出す。


「仁さん! おめでとうごさいます!」


茂みから見ていたレイが俺に抱き着いて胸板に頬をすりすりしていた。

その目尻には涙が浮かんでおり心配していたのが分かる。

俺はレイを宥めながらギガンテスの死体を見る。

すると、ギガンテスの死体は白色の煙を上げ蒸発していくように消えていっている。

そして完全に消えるとそこには15センチほどの虹色に輝く綺麗な石があった。

エナはそれを拾い上げこちらに持ってきた。


「はい、これ。仁くんが倒したから仁くんの物だね」

「これは?」

「魔石だよ。これをギルドに持っていけば換金してくれる。この大きさだとかなりの金額になると思うよ」


それでモンスターを倒したという証明になるようだ。ありがたく受け取る。


「さあ、日が暮れる前に森を抜けよう」


エナが手を差し出して来たので拒むことなくその手を掴み立ち上がる。

そしてゆっくりとした足取りで森の出口へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ