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勇者

目の前には森が広がっていた。

360°どこを見回しても背の高い木々に覆われていた。

太陽の光を遮り、まだ日は高いのに周囲は薄暗く不気味な雰囲気だった。


「ここは...どこだ?」

「どうやらどこかの森のようですね...」

「どこかのっておまえが転移させたんじゃないのか?」

「誰かさんが焦らすから転移場所を指定できなかったんですよ!」


【誰かさん】というところにかなりの力がこもっていた。

俺は天使から目をそらして辺りを見回す。


「とりあえずこの森を抜けようぜ、魔法でどうにかなるだろ」


RPGでもル〇ラみたいに一瞬でセーブポイントに戻れる魔法があるからこの世界にもあるだろう。


「そこまで魔法は便利じゃないんですよ。というかそもそも他にテレポートする場所がないじゃないです。アホなんですか? 死ぬんですか?」


こいつ、相当恨んでやがるな。

そりゃあ始発がここだから他にワープするところがないのは納得出来た。


「じゃあ歩いて抜けるしかないのか」

「そういうことですね」


渋々俺たちは適当に歩き出す。一直線で歩けば抜けれるだろう。


1時間ほど歩いただろうか。

一向に抜ける気配はなく、逆に奥へ進んでいる気さえする。


「み、宮野さん。こっちの道で合ってるんですか?」

「こんなに歩いて出れないとなると間違ってる可能性があるな......」


俺は頬を伝う汗を袖で拭いながら周りを確認する。変わりようのない木々がどこまでも続いていた。


「ここはおとなしく誰か来るのを待つのが答えっぽいですね...」

「そうだな......」


雪山で遭難しても自分で下山しようとせずに救助隊を待った方がいい、というのを本で読んだ気がする。

果たしてこんな森奧でも人がやってくるのは疑問なのだが。

天使は歩き疲れたのか1番幹の太い木に背を預け座り込んでいた。

最近運動していなかったから疲れた。歳を重ねると運動不足が気になる。


「宮野さん、宮野さんの下の名前ってなんですか?」

「どうした急に?」

「いや、データでは苗字しか書かれてなかったので。今後長い付き合いになりそうなので苗字呼びだと堅苦しいと思いまして」

「仁だ。宮野仁」

「仁さん、いい名前ですね」


名前を褒められたのは初めてだ。中々悪い気はしないな。


「それじゃあおまえの名前も教えてくれ」

「ナンパですか? こんな状況でナンパするなんて凄いですね」

「アホ言え、こんな簡単にナンパ出来たら30歳童貞なんて結果になってない」

「それもそうですね、私の名前はレイチェルです。親しい人にはレイって言われてます」


さあ、ここで2つの選択肢が発生する。

1つ、レイチェルで呼び名を通すか。

2つ、親しみを込めてレイと呼ぶ。

考えろ。童貞脳を回転させろ。

.......だめだ。女性経験がない俺には難しすぎる選択だ。

ここは安定の前者でいこう。


「そうか、改めてよろしく。レイチェル」

「......今私の呼び名で葛藤してましたね?」


ジト目で睨みつけてくるレイチェル。

なに? エスパー? 天使ってそんなことも出来るの?

冷や汗を滝のように流しているとレイチェルが呆れたようにため息を吐いた。


「呼び名1つで考え込むから彼女出来ないんですよ。好きな方で呼べばいいんですよ」


「れ...レイ」

「なんですか?」


意地悪そうにニヤけるレイチェル。

こいつ絶対に楽しんでやがる...。


「よ、よろしく」

「はい!」


天使による天使のような笑顔を見せられて見惚れないほうがおかしい。


ガサガサッ!!


そんな夢の(?)ような時間を邪魔するかのように10メートルほど向こうの茂みが不自然に揺れる。

俺たちはほぼ同時に立ち上がり音のした方を警戒する。

勢いよく茂みから出てきたのは某ゲームに出てくるようなスライムだった。しかし、ゲームのような可愛らしい形ではなく、ほぼ形を成していないドロっとした生物だった。色は薄緑っぽい色で気持ち悪さが際立つ。


「なんだスライムか...」


ほっと胸を撫で下ろしてスライムを見る。

比較的動きは遅く、視認してから避けても余裕で間に合うだろう。

スライムといえばゲームのチュートリアルに出演するほどの弱小モンスターだ。おそらくスライムがラスボスのゲームなんて滅多にないだろう。


「どうします?」

「せっかくだから魔法の練習がてらに倒してみる」


スライムほど練習に適したモンスターはいない。

さあ、何の魔法を試そうか。炎魔法だとこのへんが火事になる可能性があるし...。

よし、ここは炎魔法の逆の水魔法を試してみるか。

たしか、想像したらいいんだよな?

こう...魔法陣が展開されてそこから水が出るように...。

俺は頭の中で攻撃するイメージで右手を伸ばす。

すると、1メートルほどの淡い水色の魔法陣が展開された。そこから大量の水がスライム目掛けて放出された。

スライムは勢いに負け、後方へ流される。


「こんなもんか...」

「凄い威力ですね...」


もう少し意識すれば勢いそのままで細く出来るだろう。水で硬い鉄も切る実験動画がテレビでしていた。それのようにすれば可能だろう。スライムの周辺には水浸しになっている。


「魔法って凄いな」


俺は自分の右手に視線を落として閉じたり開いたりする。小さい頃から思い描いていたことが今、実現している。

高揚感を抑えてレイのほうを見る。

レイの顔は驚愕の表情に染まってる。

視線を辿ってみるとスライムがいた。


ーー最初の何十倍にも膨らんでいるスライムが。


まるで俺の水魔法をスポンジのように吸収して膨張しているようだ。

大きくなっている分、移動する距離も増えている。すぐに俺たちの近くまで来た。


「に、逃げるぞ!」


俺は立ち竦んでいるレイの手を取ってスライムとは逆方向に走り出す。

木々を薙ぎ倒して俺たちを追ってくるスライム。


「やばいって! こんなところで死ぬとか勘弁だって! スライムに殺されるとかRPG初心者でもやんねーよ!」


チュートリアルで死ぬとか洒落にならん。

無我夢中で走っていると木の根に躓いたのかレイが足を縺れさせ、転んでしまった。


「レイ!」

「逃げてください!」


伸ばした手を払い除けて俺を目を見る。

その目は恐怖でいっぱいになり今この瞬間にでも泣き出してしまいそうだ。


「女の子を置いて逃げたらそれこそ男として恥だ!」


レイとスライムの間に入り、先程と同じように魔法陣を展開する。ぶっつけ本番だが水圧を強くしてスライムを足止めすることを試みる。


『穿て、我が雷は槍となる!』


暗い森とは対称的な明るい声が響く。

刹那、声の方角から一閃の稲妻が飛んでくる。水をよく含んだスライムは電気をよく通し、原型を留めないほどに黒く焼け焦げていた。

それは一瞬の出来事だった。絶体絶命の状況をたった1発で救った。

まるで勇者のように。


「いやーあそこまで大きくなったスライムは初めて見たよ」


緊迫していた場には似合わないほどの気の抜けた声。

俺とレイは揃って魔法の主を見る。

茂みの置くから1人の少女が姿を現した。

その華奢な体には似つかわしくない甲冑を装備しており、その甲冑にはいくつもの小さな傷が付いていた。この薄暗い森でも輝いて見えるロングの銀髪が特徴的だ。


「大丈夫? 怪我はない?」


足を押さえているレイに駆け寄る。

ちょっと捻ったようで青くなっている。

その箇所に手をかざすと柔らかい光が包み込む。


「でも、スライム相手に水魔法って中々のチャレンジャーだね。もしかして冒険初心者?」


手当てをしながら俺に尋ねる少女。

どうやらスライムに水魔法で攻撃するのはゴーストタイプに格闘タイプをぶつけるようなものだったらしい。


「実は今日からだったんだ。助けてくれてありがとう」


ここは上手く話を合わせたほうがいいと思い肯定する。


「にしては中々の水魔法だったんじゃない? スライムが一気にあのレベルまで膨張するなんて」

「2人で協力して発動した魔法だったんだ。2人とも今日初めて冒険したから知識が乏しくて」


伊達に10年近く社会人をやってきていない。臨機応変に怪しまれない言い訳なんて入社して3年以内に身についた。


「そう、良かったら街まで一緒に行く?」


それ以上は深く追及しないでそんな親切なことまで言ってくれた。

元々は森を抜けるために歩いていたらスライムに遭遇したんだ。それが思わぬ形で森を抜けれることになって表情を明るくする。


「迷惑じゃないなら頼む」


治癒が終わったのか優しく包み込んでいた光は弱くなっていった。

試しにレイが足を動かしてみるが何事もないように治っていた。


「ありがとうございます」

「いいよ、困った時はお互い様だから。あたしエナ、よろしくね」

「俺は仁だ。んでこっちの小さいのはレイだ」


俺たちは自己紹介をして少女、エナと握手をした。

レイちゃんの容姿に付いて書きそびれたので追記します。

髪は金髪のショートで身長は140センチ後半です。


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