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7.告白

「なるほどね………」


 僕は殺人鬼である彼の話を真剣に聞いていた。しかし当たり前だが、理解が及ばないことも多かった。

 なぜ元カノや母親まで手にかけてしまったのか。殺人衝動を解消するだけなら他人だけでよかったのではないだろうか。大切な人の命を奪うことに意味はない。

 しかし、もう遅いのだ。大切な人を失った彼は今後後戻りすることはできない。


「君は本当に狂ってしまったんだね」


「さあな、これが本来の俺なんじゃないかと思うぜ」


 彼は自慢げな顔をした。うざったい。


「そうかい。……それで君はこれからどうするつもり? 大切な人もいないんだよ?」


「どうだろうなぁ……。お前と一緒に殺人を楽しむのも悪くないけど、なぁ?」


「いやだよ」


「即答か」


「そりゃそうでしょ」


 僕が頑なな態度でいると、彼はクククと笑い始めた。なんだその笑い方は。


「クク、やっぱ俺はお前が好きだ……」


「えぇ……」


 脈絡のない告白に僕は引くしかなかった。


「お前と一緒にいるとほんとに楽しいぜ」


「どうも……」


 僕が軽く会釈をし、後ずさりをすると、彼は急に距離を詰めてきた。その行動に僕の心臓がビクッと跳ねた。あの話を聞いた後だと無意識に体が反応してしまう。


「俺さ、マジでお前のことが好きなんだよ!」


「――え?」


 僕は一瞬固まっていたが、すぐに言葉の真意を察した。

 彼が真剣な表情で僕に訴えかける。つまりはそういうことなのだろう。


「それって……もしかしてラブの方?」


 僕がそう言うと、彼は頬を掻いて気恥ずかしそうに頷いた。


「え、いや、待って、待ってよ……。頭がついていけてない……」


 彼のことは親友としか考えたことがなかった。純粋に好意を向けてくれるのはありがたいが、そういう対象ではない。いや、それ以前に、さっきまで殺人の話をしていたのに、どうしてこうなったのだろう。


「……まあ、後々考えてくれ。別にすぐどうこうしたいわけじゃないんだ」


「いやそういう問題じゃないし、どうこうとか以前に君はすぐ捕まるし、なんでこんな話の流れになったのかわからないし……」


「どうしても、最後に言っておきたくてな……」


 困惑している僕を差し置いて、彼は至って真面目だった。

 これから彼は逃走するのか自首するのか、はたまた別の選択をするのかはわからなかったが、遅かれ早かれ国家に処罰されるのは目に見えていた。そんな中、勇気を出して告白してくれたのだから、僕も誠意を見せるべきなのだろう、か。


「……君の気持ちは十分にわかったよ、ありがとう」


「ほ、ほんとか?」


 彼はおそるおそる、期待の視線を僕の方に向けた。


「うん、僕も親友としては君のこと……好きだよ。だけど、それ以上でもそれ以下でもないかな。とりあえず。今のところは」


 彼の顔がぱぁっと明るくなる。その顔からは、とてもじゃないけど、殺人鬼を連想することはできない。


「そりゃ、よかった。だがよくないな」


「どっちよ」


 彼は難しそうな表情に変わり、何かを考え込み始めた。


「どうすりゃ………。――そうだ、キスしようぜ」


「はっ?」


 何を閃いたのかと思えば、彼が繰り出したのは理解不能の一手だった。


「とりあえずキスすれば相思相愛になれるから、絶対!」


「ばかなのっ?」


「いてっ」


 とんでもない理論を聞いた僕は、思わず彼の肩にパンチしていた。


「ぜ、絶対上手くいくから! そのままの流れで交われるから!」


「はぁぁ………」


 僕は深いため息をつき、頭を抱えた。


「本当に、君は、完全なる、サイコパスだね……」


「え? どこが?」


 まるで他人事かのように純粋な質問をしてくるサイコパス。


「そうやって理解していないところだよ、ばかっ」


 そう言いながら僕はぽかぽかと彼を叩く。


「いてっ、いやそんなに痛くないが、お、おい、やめろ」


 とても殺人鬼の言動とは思えない。止めようと思えばすぐに止められるだろうに。


「まったく……。ひとまずそのキスやらなんやらは置いといて。今後のことなんだけど、僕は君に付いていくことにするよ」


「え?」


 彼は不思議そうな顔をした。


「これから何をするにしても、君は捕まる運命だと思う。けど捕まるまでは僕が一緒にいてあげるよ、親友だしね。ただし殺人はしないけど」


 僕は彼と一緒にいることが一番落ち着くのだ。そう気づいてしまった。彼の殺人の話を聞いてもなお、親友でありたいと思い、僕の好意は変わらなかった。


「ははは、お前と一緒なら退屈しなさそうだな」


「でしょ?」


「だが断る」


 なんでやねん。


「お前のことは世界で一番好きだ。だから一緒にはいられない」


「あ、そう」


 僕には迷惑を掛けられないということなのだろうか。嬉しいような悲しいような。


「いつの間に世界一位へ成り上がっていたんだ僕は」


「お前と一緒にいると居心地が良くて、気が付いたらお前の存在が一番大きくなっててな」


 彼は真剣に恥ずかしいセリフを吐いた。そのおかげで僕は照れくささなのか羞恥心なのかよくわからない感情を得ていた。


「今は……僕も君が世界で一番好きかもね」


「ま、まじで?」


「うん、たぶん」


 もちろん深い意味はないが、はっきりと好意を伝えられたことで、僕の彼へ対する好感度が急上昇していた。思春期の情動というやつだ。


「よっっしゃあぁああ!」


 彼は大きく拳を上げ、全身で喜びを表現した。かわいい奴だ。

 ……僕もサイコパスに毒されておかしくなっているのかもしれない。


「ほんとに嬉しいぜ! ありがとな!」


「はいはい。……そういえば聞きたかったんだけど、なんでお母さんまで手にかけたの? 殺すのを楽しむだけならそんなことする必要なかったんじゃない? 実は嫌いだった?」


 僕がそう問いかけると、彼は体の動きを落ち着かせた。


「ん? それはだな……元カノを殺した時の快感が忘れられなくてさ。もっと近しい人間を殺したら、俺はどうなるのか、どう感じるのか。それが気になって試してみたんだ」


「なるほど……それでどうだったの?」


 彼はニヤリと笑い、


「最高だったぜ」


 恍惚とした表情でそう言った。


 そして僕は思った。




 ああ、そうか。僕は死ぬのか、と。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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