6.衝動
まず俺は、下校中の冴えない男子生徒一人に声をかけた。そして無理やり部室まで連れてきた。
「なんですか? 部活の勧誘ならお断りですよ?」
強引に連れてきたにもかかわらず、その男子生徒は平然としていた。こういうのに慣れているのかもしれない。
「まあそう言わないで、とりあえずそこの椅子に座っててくれ。茶でも出す」
彼はぶつくさ言いながらも椅子に座り、携帯電話をいじりだした。
………殺したい。
俺はこの衝動を抑えることができなかった。
「んっ! んんんん!」
俺は彼の背後から腕を使って首を絞め、口も塞いだ。そしてどんどん絞める力を強くしていった。彼は苦しそうに暴れもがいていたが、そのうち動かなくなった。
「はぁ、はぁ………」
俺は息を切らせながらそいつを観察し、確かな興奮が沸き上がっていた。
「……まだ生きてる、かな」
俺はあらかじめ用意していたナイフを取り出し、そいつの首元に突き刺した。ビクッとその体が揺れ、やがて椅子から床に崩れ落ちた。
「クク……、あぁ、最高だ……」
想像していた快感以上だった。脳の中でアドレナリンがどばどばと出ている。それが容易にわかる。俺はこのために生きていたのだ。
「部屋が汚れちまうな」
さっきまで生きている人間だったそれを部屋の端まで引きずり、さっさと黒い袋の中に詰め込んだ。そして床に散らばった汚物を掃除した。
「さて、次は誰にしようかな……」
それから同じような手順で一人、また一人と部室に連れ込み、どんどん処理していった。趣向を変え、生きたまま解剖をしたり、レイプをしながら命を削ったり、たっぷりと楽しんだ。
しかし、楽しむと同時に何か足りないような気がしていた。それが何なのか、今の自分には全くわからなかった。
「次は……」
そこで俺はこの間まで付き合っていた彼女を呼び出した。
「――なに? あたし忙しいんだけど」
彼女は容易に来てくれた。まだ俺のことを好きだということはわかっていた。
「いや、やっぱり俺にはお前が必要だったと思い直してな……」
「はぁ? なに自分勝手なこと言ってるの? あんたが別れたいって言ったくせに……。今更無理だから!」
「無理でも俺はお前が好きだ。また付き合ってくれるまで諦めないからな」
「いや、そんなこと言われても……」
彼女はもじもじしながら髪をいじり始めた。押しに弱いのは相変わらずだ。
「また好きになってくれるまで離さないからな」
俺は彼女を無理やり抱きしめ、クサいセリフを吐いた。
「う、うん……」
もう少し時間が掛かると思ったが、どうやら上手くいったようだ。それにしてもちょろくて都合のいい女である。
そのまま俺は彼女と唇を重ね、半ば強引に性交へともちこんだ。俺は行為を楽しみつつ、そんな時でもどういう殺し方をするかをひたすら考えていた。気づけばそういう頭になっていた。どこに興奮して勃起しているのか、自分でもわからない。
「――なぁ」
「ん……なに?」
射精後の頭がクリアになった状態でも自分の考えは何も変わらなかった。むしろ彼女の命を絶つということ以外は頭にない。俺はその衝動によってまた勃起していた。
「お前、俺のこと好きか?」
「え、そ、そんなの……、好きに決まってるじゃん……」
彼女は赤面し、可愛らしく俯いた。
「よかった、最後にそれが聞けてよかったよ」
俺はニコリと笑い、彼女の喉にナイフを突き立てた。
「え――」
それが最後に聞いた、彼女のまともな発声だった。
――そして、女手一つで俺を育ててくれた母親も学校に呼び出し、殺した。