5.悪臭
彼と僕が部室の荷物をどかし始めて、十五分ぐらいは経っただろうか。
荷物の山は逆側に移動され、最後にあるものが残った。ダンボール箱が五つ分並んだぐらいの何かに、大きな黒い布が覆いかぶさっている。
「はぁ……、これが、ってことなんだよね?」
「ああ、正直これを見るのは、お前でもきついかもしれないぞ」
「うん、でも確かめなきゃ」
荷物をどかしているうちに、異様な臭いがどんどん強くなっていくのを感じられた。ここにある何かから発せられているのは確かだ。だいぶ臭いに慣れてきたものの、気分が悪いのに変わりはなかった。
「じゃあ、いくぞ」
彼が黒い布に手を掛けた。
「……うん」
――バサッ。その音とともに隠されたものが姿を現した。
「うっ、これは………」
そこにあったのは、中身の詰まったゴミ袋五つ。その一つ一つに、人間のようなものが収まっていた。袋が汚れていたのと、暗くて見えづらいということもあって、僕はなんとか正気を保っていた。
しかし布を取り払った直後から臭いが酷く、今にも吐きだしそうだった。
「おぇええええ」
「えっ?」
隣を見ると、彼が吐しゃ物を撒き散らしていた。僕は唖然とするしかなかった。
「……これって、君がやったんじゃないの?」
僕はゴミ袋の方を指差す。
「はぁはぁ……あぁ……」
彼は息を切らしながら肯定した。
「そんなに気持ち悪そうにしているのに?」
「んっ、はぁ……まあ、そうだな」
息を整えた彼が少し笑みを浮かべる。
「生理的に受け付けないんだ、こういう汚物はな……」
「汚物って、君がやったことでしょ?」
僕は呆れ気味にそう言う。
「ああ、だからこいつらを処理した時に結構吐いたりしたぜ」
「そっか……」
やはり僕の親友は人を殺したのだ。彼が苦しむ姿を見た時、もしかしたらと僅かに期待した。だが、どうしても受け入れたくない、そんな自分が無理やり思考を捻じ曲げていたようだ。
「この臭いは……死体から出てるんだよね?」
「いいや、たぶん違うな。この数時間で腐敗はしないはずだ」
「じゃあ、なんなの? 君のゲロ? それとも子孫?」
僕は彼を問い詰める。
「……ま、まあ、ゲロはあるかもしれないが、こいつらの血とか排泄物の臭いが混ざり合ってんだろ。あと少しでも軽減させたくて、匂い付きのファ○リーズをこれらにスプレーしまくったのもまずかったかな」
「ナチュラルにひどいね君」
彼はもう罪悪感などとは無縁になったのだろうか。
「い、一応お前のためでもあるんだぞ」
「そりゃどうも」
何にしても、彼は完全におかしくなってしまった。それならせめて、親友の僕だけでも寄り添って、詳しい話を聞くべきだ。
「……それで、君は汚物に嫌悪しててもこの人たちを殺したかった、ってことなんだよね?」
「あ、ああ、もちろん」
「どうして、そうなっちゃったの?」
「公園でも言ったろ、殺ればこの快感がわかるって」
「そっか……ならその時の詳細を全部教えてよ」
ぐいぐい聞いていく僕に、彼は少し気おされているようだった。
「うーん、全部か。少しだけ話すつもりだったが……」
「ダメ、全部聞かせて」
僕がそう言うと、彼は頭を抱え、なにやら葛藤していた。
そして、しばらく下を向いていた彼が、こちらをじっと見つめてきた。
「……わかったよ。もうお前には隠し事なしでいく」
彼は重い口を開き、全てを語り始めた。