4.それ
-これまでのあらすじ-
僕の親友が「人を殺した」と告白した。
証拠を確認するため、僕はサイコパスな彼についていく。
彼と僕は校舎の別館に忍び込んでいた。
学校の周囲にある塀を乗り越えるのは、意外に簡単だった。また、彼がトイレの窓をすぐ開けられるように細工していたので、僕らは何の障害もなく校舎の中へと潜入した。
「ほら、着いたぞ」
彼が案内してくれたのは、手書きで『けいおんぶ!』と書かれている部屋。つまり彼の部室だった。
「そういやお前はここ初めてだっけ?」
「いや、一度だけ来たことがあるよ」
彼は高校二年の頃、友達に誘われてこの『軽音部』に入った。しかし幽霊部員がほとんどで、何かをできるような環境でもなかったらしい。そのまま誰も来なくなって、今では彼が管理する物置となっていた。
――カチャ。鍵を開ける音がした。
「さあ、中に入ろうぜ」
彼が重そうな扉を手前に引き、僕を促した。
「うん……」
僕は思わず息を飲んだ。意を決して歩を進めると、部屋の中から異様な臭いが漏れているのを感じられた。それでも我慢して部屋の中へと足を踏み入れる。
「うっ……息がつまりそうだ」
――ガチャン。僕が中に入るや否や、彼は外界との扉を閉ざした。
「ああ、くっさいな」
彼は部屋の明かりをつけず、代わりに携帯電話のフラッシュを小さく光らせた。内外から異変に気づかれないようにするためだろう。
「前に来た時より、随分物が増えたね……けほっけほっ」
部屋の中を見渡すと、半分以上が段ボール箱や剥げた看板、ゴミらしき物などで埋まっていた。空いているスペースには机と椅子が二つずつあるだけだった。
ここは元々あった音楽室を分割して作られた物置だ。しばらく放置されていたところを部室として与えられたらしい。そのせいで元から埃くさく、こもりやすかったという。
「物が増えれば隠し場所も作れるからな」
「……じゃあさっさとその隠したものを見せてよ」
僕がそう言うと、彼は目を見張った。
「……まあいいけどよ、こういう時でも怖気づいたりしないのな。お前なに考えてるのかよくわかんねえわ」
当然僕はそれらを実際に見るのが怖くて仕方がなかった。今にも足がすくみそうなぐらいだ。しかしそれ以上に早く真実を知りたいという気持ちがあった。
「僕も君がなにを考えているのかわからないよ」
「ふっ、お互い様だな」
彼はそうつぶやき、大量の荷物を一つずつ動かし始めた。
少し見守っていたが、僕も周りの物をどけて手伝うことにした。
すると、
――ブニョ、ブチュ。「うっ」
靴下越しに何か変な感触があった。嫌な感じだ。
「まさか……」
心臓の鼓動が速くなっているのを感じる。今踏んでいる得体の知れないものがとてつもなく気色悪い。もし人体の一部や準ずる液体物だったら……。想像するだけで僕は下を見る気がしなかった。
「ん? どうかしたか?」
「なにか踏んだみたい」
「へえ、そうか」
どうやら助け船は来ないようだ。しぶしぶ僕はそれを直視せずに拾った。それを光が届くところに持ってくると、僕の想像の斜め上をいくものであることがわかった。
「ねえ」
「ん? ――あ」
「どゆこと?」
それを見せびらかすように掴み、僕はジト目で彼を見つめる。
「あー、ははは」
彼は誤魔化すように笑った。珍しく彼がうろたえているようだ。
「まあ、なんだ、連れ込んだらやりたくなっちゃう時もあるんだ」
「ほー。……とりあえずこれを引き取ってもらえるかな」
「あ、ああ。――うわっ、汚いな」
僕はそれを彼に手渡した。しかし彼は受け取るとすぐに、その辺の荷物のところへポイ捨てした。そういういい加減なところが、二次被害を生む原因なのではないか。
「とりあえず忘れろ」
彼はそう言い放ち、作業に戻った。
「………」
最後にそれを一瞥すると、ゴムから液体が漏れ、無残な姿になっていた。