2.サイコパス
「いやいやいや、脈絡がない気がするんだけども。それはつまり、人を殺す想像を現実にしたってこと?」
「まあそういうことだ」
彼はさらりと答えた。
僕には彼がどんな心境でいるのかわからなかった。わかるはずもなかった。
普通の人間は理性というリミッターによって行動が制御されている。同じ人間を殺すことは相当な葛藤が生じるだろう。容易ではない。ましてなんとなく想像した、ありえないような犯罪行為を本当にやってしまう人間などそうはいない。
「仮にもしそれが事実だとして、君は警察に追われているってことになるよね?」
「明日以降はそうなるだろうな。でも、今日は大丈夫だ。ばれないようにうまく考えてやった」
「そう……」
僕は少しほっとした。もちろん彼が実際に殺人を犯したというのなら、警察に連絡をするつもりだ。しかし確証が得られなければ、真偽の判断はしたくない。それに正確な動機など、彼から聞き出したいことはたくさんある。
「まず一番気になってること聞くけどさ、誰を殺したの?」
「最初はな、下校途中のどうでもいいクラスメイトを呼び出して殺した」
最初は、ということは他にも殺した人間がいるようだ。
「本当にどうでもいい、名前も覚えてない奴だったよ」
「なんで? 別に恨んでいたってわけじゃないんだよね? どういう感情になったらクラスメイトを殺せるの?」
「俺は毎日退屈で無感情に近かったよ。だからその日常を壊したくなったんだ」
彼は真剣な表情でそう言った。
「だったら人を殺す以外にやりようはあったんじゃ……」
「そうかもしれないな。だがそれが一番刺激のあるやり方だと思ったんだ。実際今まで感じたことのない、普通に生きていたらこれからも感じることのできない刺激に満ち溢れていた」
そうして彼はこちらを向いて恍惚とした表情を浮かべた。
「――最高だったよ」