1.告白
「――俺、人を殺した」
「は?」
突然、僕の親友がとんでもないことを告げてきた。
「……うーん、この場合、僕は君になんて言ったらいいの?」
「おめでとうとでも言ってくれ」
「いやそれは違うよね」
「そうだな」
「………………」
僕らは寂しげな公園のブランコでゆらゆら揺れていた。夜11時に彼から呼び出され、今に至る。
「冗談だよね?」
「本当にそう思うか?」
「……そうあってほしい、かな」
「残念だが、冗談なんかじゃない。俺は今日、間違いなく人を殺した」
いつもと変わらない調子で彼は淡々と話していた。彼はこんな冗談を言うような人間ではない。高校で2年半程の付き合いだが、それぐらいはわかる。
しかし本当に人を殺していたら、普通は平然としていられないだろう。ちょっとからかわれているだけだと考える方が自然なのかもしれない。
「今日って……放課後なんかあったの?」
「なにもない。いつも通りだ」
人を殺したらいつも通りではないな、とか思ったが言葉には出さなかった。
彼の言うことが真実なら、間接的に誰かを追いこんでしまった、正当防衛でそうなってしまったとか、そんなことならありえるような日常を送っていたと捉えるべきなのだろうか。
「いつも通りだから殺したんだ」
その言葉に一瞬戸惑ったが、いつも人を殺していた、ということはないはずだ。さすがに非現実的すぎる。だが何にせよ、僕が彼のほんの一部しか知らないことは確かだった。
「……ちょっとよくわからないんだけど、説明してもらってもいい?」
「ああ。しかしやっぱりお前はこういうときでも取り乱さないな」
「お互い様な気はするけどね」
「お前のそういうとこ、結構好きだぜ」
「……そりゃどうも」
当たり前だが、僕は内心穏やかではなかった。彼が僕を呼び出した真意が全くわからないままだ。彼は誰かに自分の悩みを打ち明けるような人ではないし、まして助けを求めるような人間でもなかった、はずだ。
もしかすると、いつも心に秘めていた分、ただ話を聞いてほしいだけなのかもしれない。それならば、できるだけ力になりたいと思った。
「それでさ、お前、人を殺そうと思ったことはないか?」
「ないよ」
「即答か。なら、信号待ちしている人を道路に突き飛ばしたり、電車待ちしている人を線路に落とそうと思ったことはないか?」
「ない、ね」
「本当にないか? 今目の前にいる、この教室にいる人間を殺していったらどうなるんだろう、とか。行動にしなくても、想像するだけならあるだろ?」
「……想像だけなら、ある、のかな」
そう答えると、彼は満足げにうんうんとうなずいた。
「そうだよな、お前ならわかってくれると思ってたぜ」
「いやなにもわかってないんだけど……」
この時点で僕は、なんとなく話の流れが見えたような気がした。考えたくはないが、もし想像だけでなく、実行に移していたら………。
「――だから殺したんだ」
そう言って彼はニヤリと笑った。