雨水優子 摂食障害
春。
ソメイヨシノは散り急ぐように舞っている。
「いや~春ですねえ。ちゃこちゃん」
「何のん気なこと言っているんですか。
新入生も入ってきて新しい年度の始まりなんですよ!」
「あーそれねーよく僕、人事異動なかったわー」
誠史郎はしみじみと保健室から見える景色に目を細める。
「桜井先生!」
バシンと北斗が業務日誌で誠史郎を叩く。
「もう、こちらのファイル見てください」
「ん、先日の春の健康診断の時のものですね」
「ほらここ」
北斗が指をさす。
「んー」
ポコポコ誠史郎が電卓を叩く。
「うーん。アウトですね。来てもらいましょうか、ちゃこちゃんは確認ヨロシク」
「わかりました」
・・・数日後
「失礼します」
1人の女生徒が入ってきた。制服から除く手足は人形のように細い。
「やあこんにちは雨水さん。こっちこっち。あ、入学式で気づいてもらえなかったかな?
もちろん気にしていないよスクールカウンセラーの桜井誠史郎で~す」
少し軽い感じで笑顔を絶やさず誠史郎は自己紹介をする。
「スクールカウンセラー・・・?」
「まあ軽くお話したいんだよね~」
「お話する事なんてないんですけど」
「じゃあ質問に答えてくれるだけでいいよ」
警戒気味の雨水を北斗がなだめながら相談室に連れて行く。
相談室に使用中の札がかかる。
「雨水さんはダイエットしてるのかなぁ?」
「していません」
表情を変えずに白い肌で雨水は答えた。
「雨水さん、いま自分が何キロ知ってるよね?この前計ったばっかりだもの。
あのねBMI数値と言うのがあって
雨水さん身長150㎝体重36㎏でBMI16なの。
もうこれはねご両親と面談して、ちゃんと病院で治療を受けてもらわないと
困る状態なんだよね。それで小学校に問い合わせたんだけど、
小学校ではそんなにひどくはなかったみたいなんだよね。
この短期間で何でこれだけ体重が落ちちゃったと思う?何かあったのかな?」
「もしかして吐いたりした?」
少し厳しい目で誠史郎が言う。
「うっっっ・・」
嗚咽交じりに優子が泣き出す。
「パパやママには絶対言えない・・・」
「どうして?」
「本当はK中に行くはずだったのに落ちちゃって・・・
パパがあまり口利いてくれなくなっちゃった・・・」
「ママは味方になってくれているかな?」
顔を覗き込むように誠史郎が声をかける。
「よくわからない・・・怖くて話しかけられない」
優子は制服のスカートを握りしめたまま答える。
「やっぱりだめだよ。ちゃんとパパにもママにも話を聞いてもらおう。
吐いてしまっているなら、もう症状が進んでしまっているからね。
学校ではもう対応できない範囲なんだよ。
きちんとお医者さんに行こう。
パパにもママにもたくさん話を聞いてもらってわかってもらおう。
何度でも家庭訪問に行ってわかってもらうようにするから」
優子の目からは涙が止まらない。
「泣かないで。これから新しい中学生活が始まるんだからさ」
誠史郎はやさしく優子の頭をなでて励ます。