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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十二章 固執する理由
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6.果たしてこの話の着地地点におじい様はいるのだろうか? 博史の観察

「まあ、あの人も、明宏もそんな風だから、篤博も博史ももっと楽にしたらいいのよ。篤博‥厳しくして‥今まで本当にごめんなさいね」

 言って、おばあ様は静かに四朗たちに頭を下げた。

「そんな‥」

 って言って、四朗は頭を下げるおばあ様におろおろしている。

 そんな兄ちゃんは、でもまあ珍しい。

 兄ちゃんは普段、そんなに慌てること、無いよね。

 まあ、このカオスな状況をまとめられるのって、おばあ様位しかいないと思う。

 果たして、この話の「着地地点」におじい様はいるのか?

 ワタクシ、博史は静観したいと思います。

「あの人なんて、なんぼのもん、って思ってたらいいわ。貴方たちは十分立派に成長しています。寧ろ、立派すぎる位。もう少し肩の力をお抜きなさいな」

 ばっさりとおばあ様はおじい様を切り捨てた。

「そうよ。チャラいのは良くないと思うけど」

 母さんも頷く。と、まあその視線は父さんに向けられたままだ。

 視線がちょっと冷ややかなのが、‥怖い! 俯いたまま目を合わせない父さんは、でもその視線に完全にびびっている。‥なんだか可哀そうになって来た‥。

 ‥母さん。そろそろ父さんの顔を上げさせてあげて?

 


 果たして、着地地点にはおじい様どころか、父さんすらいなかったって話。

 俺は、あえて何も言わないでおこうと思います。‥君子危うしに近寄らず、って言うでしょ?



「まあ、その位にいたしましょう? そうそう。修学旅行の話をしておりましたね。修学旅行。楽しみですわねえ、若様」

 ナイス、清さん! 父さんの目が輝いたのを、四朗は見逃しはしなかった。‥もちろん母さんも。

 因みに、清さんの「若様」は、四朗。博史は、「坊ちゃま」だ。

 父さんが「旦那様」でおじい様が「大旦那様」、ひいじいちゃんは「ご隠居様」は、世間と一緒だ。

 清さんには本当に長い間お世話になっているんだろう。

「‥で、田中君との噂って何だい? 四朗」

 母さんの視線を俺に向けさせよう作戦、ヤメロ。

 四朗はぎょ、っとして父さんを見た。

「さあ、俺も知りません。何か噂されているらしい、ということだけは分かってるんですが。怖いですよね」

「そうだね。私たちはちょっと目立つらしくって、噂には私もよく悩まされたよ」

 まあ、私は女性関係だったけど、‥なんで「田中君」? 男の子だよね?

 父さんはちょっと首を傾げている。

 博史がぷっと吹き出して

「兄ちゃんのファンって幅広いし、ちょっと過激なとこあるから、抜け駆け禁止なんだ。で、結果、兄ちゃんに近づくのを公認されてるのが、武生さんだけ、ってね。武生さんは、ファン公認のお目付け役なんだって。で、田中君というのは、ここ最近出てきたニューフェイスらしくって、武生さんのライバル的な存在らしい、と」

 と、笑いを含んだような口調で言う。

「「へえ‥」」

 と感嘆したのは、両親。そのまま

「「すごいね」」

 感想まで、ハモる。

「ヤメテ、ホントに」

 それを聞いた、四朗の居心地の悪そうな顔ったら、ない。

 そりゃ、そうだろう。

 俺だって、お断りだ。と、博史は妙に納得した。

「田中君‥。ひいじいちゃんの知り合いらしくって、そのことで話したことがあったんだ」

 疲れた様子で四朗が両親に説明する。

「ふうん? 」

 と、反応したのは父さん。母さんはまだ、生温かい微笑みを四朗に向けている。

「昔はひいじいちゃん、あの容姿のせいで周囲から浮きまくってて、いじめとかもあったらしくって、そんなとき声をかけてくれたのが、田中君のおじいさんだけだったんだって、ひいじいちゃんも懐かしそうに言ってた」

「虐め! 」

 博史が、「何だって! 」と噛みつきそうな勢いで叫んだ。

「‥昭和初期だったら、あの容姿は目立っただろうしね」

 父さんはどこか納得した様な口調だが、その表情は少し険しかった。

 母さんは浮かない顔で「そうなんですね‥」と暗い声を出す。

「大旦那様もそんなことありましたね。小学校の頃‥」

 と、清さんも暗い顔だ。

 そういえば、おじい様とおばあ様と清さんは、幼馴染みだったって聞いたことがある。

 清さんがおばあ様よりいくつか年上だったはずだ。

 そういう話を聞くこと、いやそんな場面に遭遇することがあったんだろう。

 当時を思い出してか、きゅっと眉間にしわが寄ったのが分かった。

「小学生とかは、異質なものに対して容赦ないからねえ」

 父さんは重い口調でつぶやく。

「父さんも? 」

 博史が心配そうな目を父さんと四朗に向ける。

「いいや? 私の時には同級生にハーフの子とかもいたし。別に特別浮く、とかはなかったと思ってるけど。言っても、父さんたちの時とは時代が違う」

 父さんは、ちょっと首を傾げる。

 そうだ。おじい様たちは、完全に「時代的」なものだ。グローバル社会を生きる我々にはそういう問題はない。

「俺は極力目立たない様に生きてます」

 と、四朗。「だから、大丈夫だよ? 」と穏やかに微笑みかける。

「いや、目立つよ。何してても」

 ちょっと眉間にしわを寄る博史。‥あんまり伝わらなかったようだ。

「‥‥」

 四朗は苦笑して「まあ、虐められてはいないよ」と言い直した。

「でも、まあ、気持ちいいもんでもないだろうから、あんまり目は見られない様にしてるね。‥紅葉ちゃんもそうだって言ってた。昔、目が怖いって虐められたことあるって」

 ため息を大きくひとつついて、四朗が苦笑いしたまま言った。

「ホント、最低だな。虐める奴。お前には関係ないだろ、とか思うよな! 」

 なんて怒る博史は、何ていい奴なんだどろう、って思う。

 隣では母さんと清さんも頷いている。

 父さんとおばあ様は思うところがあるのか、ちょっと難しい顔をしている。

 ‥そういえば、父さんの目は別に普通だから、そう目立たないな。

 四朗は、今更ながら思った。

 多分、父さんが今思っているところも、そこらへんだろう。

 おばあ様は、昔のことを思い出しているんだろうか?

「あんなにいい娘さんなのにね! 」「あ、そういえば四朗。貴方がぼんやりしている間に、紅葉ちゃん武生さんに取られちゃたわね」

 先は、憤りを含んだ口調で、そして、突如思い出したように「そういえば‥」と母さんが言葉を繋いだ。

「そうなのか? 」

 父さんが四朗を見る。

「そんなんじゃないよ! 俺と紅葉ちゃんは! 」

 思わぬ話の展開に、驚いた四朗は思わず叫んでしまっていた。

「残念ですわねえ」

 と、本当に残念そうに清さんも頷く。

「だから! 」

「‥まあ、あそこまでおんなじ顔じゃない方が、父さんはいいと思うよ」

 と、しかしぼそり、と父さんが母さんをなだめながら、四朗に呟いた。

「‥父さん‥。いつ紅葉ちゃんを見たんですか」

 聞きながら、あれこれ今までのことを脳内フル活用で思い出す。

 そうだよな、会ってないよな。この前、父さんと紅葉ちゃんは遭ってるけど、あの時は「四朗」だったよな。

「舐めないで? 父さんの情報網」

 うわあ、いい笑顔だなあ。言ってること最悪なのに、なんか許されちゃう雰囲気漂わせてるね! もう、そこまで極めたら、魔性だね! 俺も極めたいもんだ!

 秘儀、総てを誤魔化す魔性の笑み!

「‥怖! 」

 ドン引きする博史。博史よ、その「普通の感覚」これからも持ち続けておくれ。

 そっとため息をつく四朗だった。



「‥で、さっきのおじい様の話と田中君の噂はどうつながるのかしら?? 一体、どんな噂なの? 」

 ‥母さん! もう、誤魔化されて?

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