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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十二章 固執する理由
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4.‥おじい様の扱い、ちょっと悪くなってやいません?

「四朗。修学旅行の用意はしてるの? 」

 夕飯時、斜め前に座る母さんが聞いてきた。

 四朗より背が低いから自然に見上げる様になる。その瞳が少し四朗を気遣う様に見えた。隣に座る祖母も四朗を見る。

「‥。大丈夫ですよ。ああ、父さん。お知らせしてなかったですね。来月修学旅行に行きます」

 微笑んで四朗が返して、長机の正面、所謂お誕生席に座る父さんを見た。

「‥母さんから聞いた。‥いいことだと思うよ。気を付けて行っておいで」

 静かに微笑んだ父さんが言う。

「ありがとうございます」

 食卓が、何だか静かになったような感じがする。

 そんな様子が、何だか可笑しくて、そして、皆が自分のことを気遣い様子を伺ってるんだってわかるから、ほんわか暖かな気持ちになる。

「皆心配しすぎだよ。たかが、二泊三日だよ。しかも国内。‥ていうか、うちの学校、ショボすぎないかなあ。高校生が国内、しかも新幹線で移動って。北海道とか、沖縄ですらないって」

四朗の横に座る博史が大袈裟にため息をつくと、四朗が「そうかもね」と笑う。それに「ねえ、そうだよねえ」と同意しておいて

「まあ、でも兄ちゃんが家族以外で旅行なんて初めてだもんな」

 と、しみじみした声で言い、

「言いたくないことは言わないでいいと思うし、嫌なこともしなくて、いいと思うよ。無理はよくない。でも、‥楽しんできてね」

 あったかい笑顔を四朗に向ける。

「博史」

 微笑んだ四朗に家族の皆も笑顔になる。

「そうね。楽しんでいらっしゃい」

「カメラ買ってあげるよ。写真一杯撮っておいで」

 母さんと父さんが息子が可愛くって仕方ないって親バカな顔をする。そんな風景に、つん、と鼻の奥がつん、となる。

 やばい、ちょっと泣きそう。

「電子機器は禁止ですよ。‥それに、スマホで撮れますよ」

 だから、ちょっと憎まれ口を言っておく。

 だのに

「ああ、そうか」

 って笑う父さんの笑顔がホントに自然で、また泣きたくなる。

「班とかは決まってるんでしょ」

 母さんが、そんな四朗を気遣う様な優しい目で見て言った。

「うん。佐藤君と田中君と池谷君」

 照れくさくって、つい下を向いて四朗は言う。

「男ばっか。なんか兄ちゃんらしいね。‥田中君って‥噂の」

 ぷっと吹き出して、博史が面白そうな声を出す。

「‥なんの噂だ」

 と、目だけで「やめろ」、の重圧。

「‥兄ちゃん、中等部でも普通にファンクラブあるから、俺よりそいつらの方が兄ちゃんの事詳しかったりするんだ。だのに、俺に「どうなの? 」って聞かれるから。知らないっつの」

 それをあっさり無視した博史が、懲りずに続ける。

 ‥こいつ、強くなったな。

「‥否定しといて。取り敢えず何でも」

 もう、ため息と諦めの境地です。

「なにそれ、何の噂」

 父さんがやけに面白そうなのが、腹が立つ。

「いや、父さん。聞かないでいいよ」

 も、ほっといてよ。まったく、博史は。

 ん? とちょっと首を傾げて、ちょっと不満げだけど、父さんは上機嫌だ。

「楽しそうでよかったよ」

 本当に楽し気な、「いい笑顔」をする。

「この件については楽しくないです」

「へえ? 」

 と、その含み笑い、やめて。

「父さんの修学旅行ってどんなだったの? 」

「博史」

 ぎょ、っとなってつい博史を振り返ってしまった。

 あんまり、それには触れない方が‥。ほら、あの例の「桜の母さんに見初められた」って修学旅行でしょ? ‥母さんもいるし。

「一緒に写真撮って、だの、一緒に回りましょ、だの女の子が引っ切り無しに来て、それの対応ばかりして、ろくに観光した感じがしない」

 四朗の焦りなんてお構いなしに、父さんはしれっと何でもない様に言う。‥ほら、おばあ様も苦笑いしてるじゃないか。

 でも、まあ、肝心なことは言ってないから、いい。‥のか?

「‥母さんの前でそれを言う‥」

 もう、ホントごめんなさい、って感じだ。

「‥慣れてるわ‥」

 苦笑いして母さんが言った。

 でも、これは。多分面白がってる。

「大旦那様の遺伝子ですよね」

 そう言う清さんも面白がってる。

 我が家は、女性が強いなあ。いや、我が家も、か。

「清さん。おじい様もそんな感じだったってこと? 」

 博史が、以前なら四朗もしたであろう反応を見せる。

 そうだよね、そういう反応になるよね。意外だよねえ?

「あの人は、もっとひどかったですよ」

 ちょっと、怒ったような顔を無理に作っておばあ様が言った。

 へええ? と妙な声を上げた博史の顔は混乱と、困惑で、ちょっと大変なことになっている。

 そして

「よく結婚したね」

 つい、‥呟いてしまっていた。

「お母さんしか、結婚してくれなかったと思うよ。‥息子の私から見ても、父さんは‥あれだった」

 ニマニマと父さんが悪い顔をする。でも、まあ

「ああ」

 そうだろう。

 四朗も頷く。

「え!? さっきから、おじい様の話してるんだよね?? ってか、兄ちゃん、なんで驚いてないの? 」

 と、ここで博史がやっと我に返る。

「つい最近、会って話した」

 あっさりと、こともなげに、四朗が言った。

 まあ、隠しておくことでもない。

「どこで? 」

 いやに、食いつくなあ、今日の博史は。

 と、ちょっと四朗は引き気味になる。

「ひいじいちゃん家。あ、言うの忘れてた」

 ああ、そう言えば、言い忘れてたな。このこと。

「‥忘れてたって」

 博史が呆れた様な顔をする。

 ん? でも、これって重要かな。おじい様がいないのって別に珍しいことでも無くない?

「で、そのあとあの人はどこに行ったんでしょう? 」

 ほら、おばあ様も別にそんなに気にしていない。

 でも、「どこに行った」って聞くなんて、珍しい。

「‥そういえば、聞いてないな。まだ、ひいじいちゃん家にいる、とかないよね」

「‥電話してみようかしら。まったくあの人は」

 うわあ、おばあ様。今まであんなにおじい様に遠慮してたのに‥。‥おじい様の扱い、ちょっと悪くなってやいません?

 四朗たちの驚きが伝わったのか、おばあ様は少し微笑んで

「‥牡丹をね。あの庭に植えた時、なんだかちょっと気が軽くなってね」「もう少し、楽にしてもいいんじゃないか、って」

 ぽつり、と微かに笑って言った。

 先代、先々代から守られてきた庭、曾祖母の時に枯れた梅を、でも曾祖母(おばあ様から見たらお義母さんだ)は「虫がでて仕方なかったから、いいわ」ってこともなげに引っこ抜いて。それには驚いたけど、「だけど、お義母様と私は違う。私ならそんなこと出来ない‥」って、どこかこの家にずっと遠慮が消えなかった。他のものをそこに植えるなんて考え起きるはずも、勿論なかった。それに、あの頃はそれどころじゃなかったし。

 あの頃のあの人は、四朗(注・四朗父)に対する教育やら篤博(四朗)のことはそれは厳しくしてて、それについて行くのが私の仕事だって思って、「おじい様の言う通り」って私も篤博に厳しくしてきた。

でも、それ以外はあの人は勝手気ままで、家の伝統やら旧家の決まりやら守ってる風はなくって‥。篤博が立派に成長して、だから心配ないと思ったのか、あの人は家に帰ることすら減って、何だか私だけこの家に遠慮してるのが馬鹿らしく思えてきて‥。

 あれは、ちょっとした反抗だったんだ。

「そうだよ。母さんはちょっと父さんや、この家に遠慮しすぎだよ」

 父さんがちょっと悪い笑顔で言った。

 父さんもちょっと楽しんでるね‥。なんだか、生き生きしてる気が‥。

「ありがとう」

 本当に晴れやかな顔で笑うおばあ様を見て「おじい様、ちょっとホントに帰って来ないと、まずいですよ。‥居場所なくなりますよ」と、真剣に心配する四朗だった。


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